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元野村證券のアナリスト平賀洋輔氏が語る アナリストの分析手法③〜短期投資の視点〜


元野村證券のアナリスト株式会社AccuWealth 代表取締役平賀洋輔氏に寄稿頂きました。全3回のシリーズで、アナリストの仕事や分析手法、着眼点に関して解説をいただいております。

第3回は短期投資の視点に関してです。

  • 投資アイデアの発掘
  • カタリスト
  • テクニカルの有効活用

に関して解説を頂いております。

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目次

投資アイデアの発掘

PEADアノマリーを利用した決算後のモメンタムプレイ

PEADとはPost Earnings Announcement Driftの略で、ポジティブ・ネガティブサプライズの決算後に、それが瞬時に株価に織り込まれるのでなく、数週間にわたってサプライズと同方向のリターンが観測されるアノマリー現象です。

要因の仮説としては諸説あり、投資家が新たなファンダメンタルズ情報を過小評価してしまうからという説や、裁定の限界があるためにミスプライスが放置され、それが修正されるのに時間がかかるという説などがあります。

これを利用すれば、難易度の高い四半期決算の予想をせずとも、上振れ・下振れの情報から投資アイデアを得ることができます。四半期業績の市場予想が利用できる銘柄であれば、実績の営業利益や売上高などを市場予想と比較します。アナリストカバーがないなど市場予想が利用できない銘柄であれば、前年同期比・前四半期比の増減率や、半期・通期計画に対する進捗率などからサプライズ度合いをチェックします。

売り・買いの別を決定できたとして、それと同等かそれ以上に重要なのが、エントリーのタイミングです。タイミングの決定には、トレンドの見極め、株価の水準、株価のチャートパターン、の3つの要素を考慮する必要があります。詳しくは後述します。

また、短期投資では特に資金管理が重要です。資金管理とは、1ポジションやポートフォリオ全体で取っているリスク量を正確に設定・把握し、ルールに沿ってストップロス(損切りの逆指値)を置くなどリスク管理することです。リスク量の指標ではATR(Average True Range、特定期間平均の株価の変動幅を示す)がよく利用されています。

タートルズのトレンドフォロー戦略

テクニカルアプローチでは、著名なトレーダー集団であるタートルズが採用していたシンプルなトレンドフォロー戦略をご紹介します。その手法とは、「直近20期間の最高値を上方ブレイクしたら買い」「直近20期間の最安値を下方ブレイクしたら売り」です。

また、EXITルールは、「直近10期間の最安値を切ったら売り」「直近10期間の最高値をブレイクしたら買い戻し」です。資金管理は20日ATRでボラティリティを定義し、リスク資産の2%にリスクを制限します。

テクニカルの超基本であるサポート・レジスタンスを意識した、シンプルながら効果的なトレンドトレーディングと言えます。具体的な手順としては、候補銘柄のテクニカルスクリーニング→ブレイクの観察→(押し・戻りの待ち)→エントリーとなります。

海外同業の業績・株価材料からのリードアクロス

海外同業の業績・株価材料を日本株関連銘柄への投資アイデアに利用することができます。海外の競合が多いセクターや、業績ドライバー・テーマがグローバルで類似しているセクターなどで特に有効だと考えます。例えば、建機セクターのキャタピラーとコマツや、5G設備投資のキーサイト・テクノロジーとアンリツ、ウェブ会議のズームとブイキューブなどは株式市場で関連付けて見られる可能性があります。ただし、「関連銘柄」の中には業績に占める関連事業の収益の割合が低いのに半ばこじつけ的に関連にされているものもあるため、関連度合いの高さを精査する必要があると考えます。

証券会社のレーティング

証券会社のレーティング変更がされた銘柄は株価が大きく反応する場合があるため、短期投資に活用可能です。特に売り→中立の変更が、株価への影響が大きいと言われています。一方でレーティング変更自体は企業業績に影響を与えるものではないため、短期投資という観点ではかなり「賞味期限」の短いアイデア(一日~数日)となることも多い点には留意が必要です。

カタリスト

短期でも中長期でも、株価が大きく動くために必要なのがカタリストです。カタリストとは、「触媒」という意味の英語で、投資においては株価が本質的価値へと収斂するのを促すきっかけを指します。

ファンダメンタル投資では企業の本質的価値を算定し、それと現値とのギャップに投資機会を見出しますが、いくら割安に放置されていても、それが修正されるきっかけがなければリターンを創出することはできません。

カタリストの発現時期を正確に予知することは困難なものの、仮説を立てて検証していくことは非常に意味があります。代表的なカタリストには、以下のようなものがあります。

様々なカタリスト

元野村證券のアナリスト平賀洋輔氏が語る アナリストの分析手法③〜短期投資の視点〜 IFA転職コラム
出所: AccuWealth作成

テクニカルの有効活用

元野村證券のアナリスト平賀洋輔氏が語る アナリストの分析手法③〜短期投資の視点〜 IFA転職コラム

トレンドの理解

短期投資においては、エントリーとEXITのタイミングを図る上でテクニカル分析の有効活用が有益と考えています。まずは、シンプルながら最も役立つと考えられるのが、トレンドの理解です。というのも、トレンドに沿ってポジションを取るのが利益を最大化するのに極めて役立つからです。

トレンドの方向は、上昇(上値切り上げ)、下落(下値切り下げ)、横ばいの三種類しかありません。つまり見ている銘柄の主要なトレンドが、上昇、下落、横ばいのどれに該当するのかを判断するのが重要です。

トレンド把握のための代表的なツールは、移動平均やトレンドライン・チャネルラインです。移動平均の時間軸設定は各投資家の時間軸に依存するものの、主要トレンドの把握には200日移動平均線のような長期の移動平均線が適しています(ただし遅行性が高いため、ポジションを取るタイミングに活用するには、5日・25日移動平均線など短期の移動平均線が適しています)。

株価=EPS×マルチプルのため、主要トレンドは基本的には利益トレンドと同方向に走ります。ただし、利益の実績上は変化がなくても、受注改善や期待できる新製品・サービス発表などポジティブな先行指標を受けて、好業績公表に先駆けて株価が上昇トレンドを形成し始めるケースも多いため、株価変動の気づきはとても有益です。

サポートとレジスタンス

新たなトレンド開始の可能性を知るのに役立つのが、サポートとレジスタンスの考え方です。株価チャート上で、過去2回以上同じ株価水準でリバーサル(打ち返し)が起きているポイントです。

リバーサルの回数が多いほど、その価格帯での取引高が多いほど、時間軸が長いほど重要性が高まります。サポート・レジスタンスまで株価が来るとリバーサルの力が働きやすいですが、一旦このポイントをブレイクすると、ブレイクした方向に新しいトレンドが発生することがよくあるため、エントリーに活用できます。通常はブレイク時に出来高が大きく増加します。

元野村證券のアナリスト平賀洋輔氏が語る アナリストの分析手法③〜短期投資の視点〜 IFA転職コラム
出所: AccuWealth作成

また、これに準じた考え方として、大きなマド空けポイントや、特大の大陰線・大陽線、大商いの価格水準、キリの良い価格(例えば1,000円や10,000円など)、IPO銘柄の初値や公募価格、52週高値・安値など、チャート上で重要な意味を持つ価格水準にも上記のアプローチを適用可能と考えます。

短期の移動平均線

主要トレンドが上昇方向時に、短期の移動平均線付近での反発を買いシグナルとする方法はよく知られており、実際のチャートでもよく見られます。また、主要トレンドが上昇時かつ短期トレンドが下落時に、短期の下落トレンドが弱まった後、株価が短期の移動平均線を下から上に突き抜けた時を買いシグナルとする方法も、シンプルですがよく利用されます。

様々なチャートパターン

テクニカル分析では様々なチャートパターンが知られており、エントリーやEXITに活用することができます。例えばトレンド転換のリバーサルパターンでは、ヘッドアンドショルダーとその逆、トリプルトップ・ボトム、ダブルトップ・ボトム、安値圏の長い下ひげ・高値圏の長い上ひげ、などが有名です。またトレンド継続のコンティニュエ―ションパターンでは、トライアングルやフラッグ、ペナント、ウェッジ、レクタングルなどが知られています。詳細は様々な本・ウェブサイトで紹介されているためここでは割愛します。

上記で紹介した手法はいずれも有名なものですが、実際のマーケットでは「ダマし」となる場合もあり、100%確実なものは当然ながらありません。不測の事態は起こりうるという前提に立ち、資金管理をするのが望ましいでしょう。

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この記事を書いた人

平賀 洋輔のアバター 平賀 洋輔 株式会社AccuWealth 代表取締役

1987年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。新卒にて野村證券に入社、企業調査一部(当時)配属。インターネット・半導体業界などの企業調査に従事する。
その後、富裕層向けエクイティセールス支援や、プライベート・エクイティ(PE)投資業務を経験。PE投資業務では、未上場企業の案件ソーシングや投資採算分析、提案、執行などを担当。セクターナレッジを活かして、国内HR SaaS系企業へのグロースキャピタル投資実行をリード。2020年には金融リサーチ業務を行うデータカンパニーである株式会社AccuWealthを設立。ITなどの中小型銘柄ピックや、ファンダメンタルズ+テクニカルのハイブリッドアプローチが得意。

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