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ヘッジファンドとは(寄稿:さんまのIPO氏)

日本株ロングショート戦略のヘッジファンドに転職し、アナリストとしてIPO銘柄や製造業全般の中小型株の調査を担当された後、共同創業したKxShare株式会社にてIPOクロスオーバー投資ファンドを運用しているさんまのIPO氏に寄稿いただいた。今回は、ヘッジファンドの定義や個別の特徴に関して徹底解説する。

本コラムは、シリーズを予定しており、次回は「ヘッジファンドの歴史」というテーマだ。

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目次

概要 ― ヘッジファンドの定義は難しい

謎多き機関投資家としてネット記事やSNSには書かれることが多く、株価の下落局面ではしばしば空売り機関などと呼ばれて悪者扱いされるヘッジファンド。

インターネットで検索しても出てくるのは特定ファンドの礼賛記事やアフィリエイトリンクなどが多く、業界に対するきちんとした理解を得ることは難しい。

このコラムで想定する読者としては、ヘッジファンドへの転職希望者、ヘッジファンドに投資を検討する富裕層、ファンド業界の知見を深めたい金融機関やIFAセールスあたりと考えている。

このシリーズではそんなヘッジファンドの実態について、筆者の経験やファンド業界のリサーチ機関、海外文献等をもとに、業界の歴史から最近のトレンドまで説明していく。筆者は日系運用会社と外資系ヘッジファンドの東京オフィスにて、日本株の運用フロントとして働いていた。

さて、早速「ヘッジファンドとは何か」という問いに答えたいのだが、カッチリとした定義がないというのが学術界では常識のようになっている。

ヘッジファンドが何かを説明するのは非常に難しい。ファンドごとに特徴が違っている上、ヘッジファンドのような特性を持つ他の投資商品もある。そこで、ここでは「成功報酬を受領し、株や債券との相関が低いリターン特性を持ち、規制の緩い投資組合」と定義する。

(筆者翻訳:McCrary, Stuart A.(2005), “Hedge Fund Course”, WILEY p2.)

他の文献でも似たような定義づけがなされており、おおむね「機関投資家や個人富裕層に販売される、レバレッジやヘッジを用いたオルタナティブ投資をする、管理報酬と成功報酬を受領する、リミテッドパートナーシップ(LPS)形式のファンド」と、ふんわり特徴を理解するくらいが正解に近い。

これらの特徴について次項で個別に解説していく。

特徴 ― 個別の特徴について深堀

ヘッジファンドとは(寄稿:さんまのIPO氏) IFA転職コラム

絶対リターン

多くのヘッジファンドが「絶対リターン型」の運用を行っている。これはどういうことかというと、例えば株であれば同金額のロング(買い)、ショート(空売り)のポジションを組み合わせて、株式市場全体の値動きに左右されないポートフォリオを構築し、個別株のアルファだけを積み上げていく。債券その他資産でも同様に買い、売り、デリバティブ等を組み合わせて、マーケット全体の指数の変動に影響を受けにくいポートフォリオとする。

「絶対リターン型」というからには名前の通り「相対リターン型」の運用が存在するということで、ほとんどの投資信託や年金機関は、ベンチマークを上回る成績を目指す相対リターン型の運用をしている。

例えば日本株の投資信託であれば、多くの場合TOPIXをベンチマークとして、TOPIXよりも上がりそうな株を中心にポートフォリオを組んでいる。

こうした絶対リターン型のファンドは富裕層や機関投資家にとって、分散効果という大きなメリットがある。

例えば富裕層であれば、稼業が景気に連動したり、投資信託や株式を通して世界の株式市場全体に投資したりしている方が多い。そのようなポートフォリオの中にマーケットの動きに連動しない特徴を持つヘッジファンドを組み込むことで、分散効果を高めつつ値上がりを享受することが可能となる。

レバレッジ

レバレッジにより高リターンを狙うのもヘッジファンドの特徴だ。

例えば日本の株式投資信託の場合、信用買いによるレバレッジは認められておらず、また投信が証券を買うためのお金を借り入れることも認められていない(投資信託協会)。

従ってレバレッジをかけるのであればETFやレバレッジ型インデックスファンドを買うのが選択肢となる。

米国の投資信託においては“資産担保率を300%以上に保つこと(杉田, 2017)”を条件に借入が認められており、この場合の“借入限度額Xを計算すると、(100+X)/X=3 からXは50となり(同上)”、純資産に対して150%までレバレッジをかけることが認められている。

ヘッジファンドの場合はそのような規制の枠から外れているケースが多く、ファンドによってはかなり高いレバレッジをかけているところもある。

例えば1999年に破綻したLTCMは、25倍のレバレッジをかけて裁定取引を行っていた(一時期は高パフォーマンスだった)。各社が何倍のレバレッジをかけているかの正確なデータはないが、2014年のNEWYORK POSTによれば、シカゴの大手ヘッジファンドでありKen Griffinが創業したCitadelは8.8倍、著名投資家Ray Dalioが設立したBridgewater Associatesは2.3倍、日本にも拠点のあるMillennium Managementは7.6倍のレバレッジをかけていたとのことだ。

なおこれらのファンドは何人もの優秀なファンドマネージャーがリスクを抑えた絶対リターン型の運用をしているため、会社全体でレバレッジをかけたとしても、自社内での分散効果により、思ったより全体のボラティリティを抑えられるという考え方だ。個人投資家がフルレバレッジの信用取引3.3倍で日本株のトレードを行うのとは意味合いが違うということは、付け加えておこうと思う。

LPS形式

LPSとはLimited Partnershipの略称で、日本語にすると投資事業有限責任組合だ。運用会社やファンドマネージャーがGP(General Partner=無限責任組合員)、投資家がLP(Limited Partner=有限責任組合員)となり、共同出資でファンドを設立する。

LPSのポイントは3つあって、1つは破産した場合にLPの被る損失は出資額に限られていて、それ以上の負債を負うリスクがないこと(これが“責任”が“有限”ということ)。

もう1つは、ファンドマネージャー自らが出資することで、顧客と利害が一致するという事。よくあるのが、ファンドマネージャーが自分の資産の何%をこのファンドに出資しているかを開示していて、どれくらい本気で運用責任を果たしているかの証明にも使われている。

最後の1つは、LPSは非課税主体であること。LPS自体には税金がかからないため、利益確定のたびに投資リターンに税金が源泉徴収されることがないため、運用資産を有効に利用できるということだ。最終的なファンドのリターンには譲渡益税や法人税がかかる。ちなみにこれは投資信託も同じだ。

参考文献

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この記事を書いた人

京都大学卒、欧州ビジネススクール修了。大手資産運用会社に入社し、日本株アナリストとして中小型株の調査に従事。運用部に異動後、サブファンドマネージャーとして中小型株のファンド運用を担当。日本株ロングショート戦略のヘッジファンドに転職し、アナリストとしてIPO銘柄や製造業全般の中小型株の調査を担当。 2021年、KxShare株式会社を共同創業。

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