不動産取引の専門資格「宅地建物取引士(宅建)」。宅建資格が活かせる就職先の一番手といえば不動産業界である。とはいえ「不動産以外に宅建が活かせる業界を知りたい」「金融業界に転職したいが、宅建を取ると有利になるのだろうか」そんな疑問を持つ転職希望者もいるだろう。
実際のところ、宅建を活かせる転職先は不動産業界以外にもある。そして宅建を持っていれば金融業界への転職にも有利だ。
今回は、宅建資格が活かせる不動産以外の業界と、金融業界の転職に宅建が有利な理由を解説する。宅建を取得して転職を成功させたい人は、ぜひ最後まで読んで参考にしてほしい。
宅地建物取引士とは
年間約20万人(2022年は22万6千人)が受験する国内最大規模の国家資格。民法や税金など、不動産に関する様々な知識を持つ不動産取引のスペシャリストが「宅地建物取引士(宅建士)」である。
資格取得者でなければ行えない専門業務(独占業務)があり、不動産会社などが土地や建物の売買・賃貸を行う際には、社内に宅建士が一定数いなければ法律違反となる。
宅建士の独占業務
宅建士だけが行える独占業務は以下の3つ。
重要事項の説明
不動産を購入する人や借りる人に、その不動産の所有者は誰か・物件の広さ・契約の解除方法などの大切な取引内容を説明する。契約後に「そんな内容とは知らなかった」といったトラブルを防ぐために契約する前に行うのが特徴だ。
重要事項書面(35条書面)への記名
上記の「重要事項の説明」は口頭で行うが、それだけで説明内容を理解するのは難しい。このため説明内容を記載した書面を宅建士が作成し、記名したあと取引相手に渡す。書面は重要事項を説明したという証明にもなる。
契約内容を記した書面(37条書面)への記名
売買・賃貸の代金や支払いの方法、物件を引き渡す時期など、取引における重要な内容が書かれてある書面に記名し、取引相手に渡す業務。
宅建の難易度
宅建の合格率は15〜17%(2022年は17%)。同じ国家資格である司法書士や公認会計士ほどの難易度ではないものの、合格率からわかる通り決して簡単な資格ではない。それだけに取得しておけば採用選考時に一定の評価が期待できる。
試験日と合格点
試験は年1回・10月の第三日曜日に行われ、毎年7月の初めごろ受付が始まる。受験希望者は受付期限がいつなのか、試験を実施する「不動産適正取引推進機構」のホームページをチェックして確認しておこう。
合格点は50点満点で35点(70%)が目安。合格点は毎年若干変動するので注意が必要だ。なお受験料は8200円(2022年)である。
試験内容
宅建の試験で問われる内容と出題数の内訳は以下の通り。なお試験はマークシート方式のみで行われ、出題数は全50問である。
権利関係(14問)…基礎的な民法のほか「借地借家法」などについての問題
宅建業法(20問)…不動産取引業務を規制する「宅地建物取引業法」についての基礎的な問題
法令上の制限(8問)…「都市計画法」や「建築基準法」など土地・建物を造る際にかかる制限についての問題
税・その他(8問)…不動産に関わる税金・鑑定評価の基準など土地や建物についての問題
学習時間と学習方法
一般的には300〜350時間が必要な学習時間といわれる。1日3時間なら約3カ月かかるが、余裕を持たせるためにも半年ぐらい前から学習開始するとよいだろう。
学習方法には独学のほか、通信講座の受講・専門学校への通学などがある。
宅建士の年収
会社勤めの宅建士の平均年収は約470〜626万円。全給与所得者の平均年収433万円を上回っている。宅建に資格手当を給付する会社も多く、相場は月1〜3万円である。
宅建取得者は金融業界への転職に有利
金融業界への転職には宅建は持っておくと有利な資格である。2種類の業種に分けて以下に理由を解説する。
銀行・信用金庫など
銀行の主な業務である「融資」では不動産の知識が求められる。融資の担保を不動産とすることが多いためだ。融資時には担保の価値を見定める必要があり、この際に宅建の知識が活きてくる。
都市銀行などの大手の場合は不動産販売会社をグループ傘下に持っていることが多い。宅建取得者が活躍する場面も増えるだろう。
また信託銀行なら、規制を受けずに土地や建物の取引や不動産鑑定が可能である。その際に一定数の宅建士が必要となるため、宅建の資格を持っていれば採用選考時に大きなアドバンテージとなる。
保険業界(生命・損害)
住宅ローンの相談や保険対象の建物の用途を判定する際に不動産の知識が必要となってくるため、宅建の資格があると有利な業界である。生命保険の場合は、住宅購入という大きなライフイベントを含めたライフプランニングに関わる場面も多い。宅建のほか、FPの資格を持っていれば更に高く評価されるだろう。
宅建が活かせる不動産以外の転職先
宅建の資格が最も有利なのは言うまでもなく不動産業界だが、ここでは不動産以外に宅建が活かせる転職先を3つ紹介する。
建設業界
建設会社はビルや住宅を造って利益を上げるが、建築した物件を販売する「デベロッパー」と呼ばれる会社も多い。法律上、建物を売る際には宅建士がいなければ取引ができないため、宅建資格があれば採用選考時に高評価が得られる。
外食産業・小売業
飲食チェーンやスーパーマーケット・コンビニエンスストアが新しい店舗を出す際には、土地や建物の賃貸契約、立地条件の判定などの不動産の知識が必要となる。賃料や立地による集客のしやすさは売上に直結する重要な要素であるため、不動産の知識に長けた宅建士は重宝されるだろう。
その他一般企業
宅建士の持つ民法や税法の知識は、金融業界や建設業界、外食産業・小売り業以外の一般企業でも活かせる「ポータブルスキル」である。また簡単には取得できない資格でもあるため、勤勉さと向学心を転職時にアピールすることもできる。
宅建は不動産業界以外でも評価され転職には有利な資格
宅建の資格が活かせるのは不動産業界にとどまらない。金融業や建設業など、不動産を扱う様々な業界で通用する汎用性の高い資格である。一方で、同じ金融業でも証券会社などの場合、転職時に宅建はそれほど評価されないため注意が必要だ。
証券業界に転職したい人は、「証券外務員」「証券アナリスト」などの専門資格のほか、FPや商業簿記などのファイナンスや会計の資格を取得するとよい。また「転職サービス」の利用もおすすめだ。中には「IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)」の転職をサポートするサービスもある。興味のある人は一度調べてみてはどうだろうか。