明治大学国際日本学部 特任教授の沼田優子氏に米国のアドバイザー業界の変遷についての寄稿を頂いた。沼田教授は長年に渡り米国の個人向け金融サービスや金融機関の販売チャネルを研究されており、2020年12月にも「IFAとは何者か―アドバイザーとプラットフォーマーのすべて」を上梓されている。
本コラムは、全5回のシリーズを予定しており、最終回は「買収・合併が加速する米国独立系アドバイザー業界」というテーマだ。
史上最高の合併案件を計上する米国独立系アドバイザー
米国では、独立系アドバイザーの主力となっている投資顧問型アドバイザーの買収・合併が活況を呈している。2017年ごろから四半期40件程度の案件があったが、コロナ禍にも関わらず、昨年後半から急速に伸び始め、2021年第1四半期は遂に76件となった。
その要因の一つとしては、独立系市場の先駆者達が、引退期を迎えていることがある。これまで拡大に勤しんできたものの、事業承継までは計画していなかったアドバイザーが少なからずいる。後継者が必ずしも育っていないゆえに売却を選んでいるのである。
また独立系アドバイザーが、規模の経済を働かせ始めたとの見方もある。小回りが利くことが彼らの強みであったことは間違いないが、資産運用業者や証券業者と比べると、交渉力の面で見劣りしていたことは否めない。そこで独立系アドバイザーが、緩やかな連合体を作り始めた。従って、この傾向は今後5~7年続くとの見方もある。
合併慣れしている独立系アドバイザー
一般に、買収・合併では相乗効果が期待されるが、実は劇薬となり得ることも周知の事実である。合併後の不協和音が解消できず、期待はずれに終わることも多い。そうした中、独立系アドバイザー業界は比較的、合併慣れしていると言えよう。
というのも独立したばかりのアドバイザーは資源が乏しいことから、システムを借りたり、マーケティングや人材育成、コンプライアンス業務の一部を外部委託したりすることが少なくない。
つまり独立当初から他社との連携ありきでビジネス・モデルを確立させる。そうした提携パートナーの一つと資本関係ができたとしても、業務に大きな変化はないであろう。買収する業者が、されたアドバイザーの経営手腕を買って取締役として迎え入れ、より大きな業者の経営に携われるメリットを用意することもある。
存在感を示すコンソリデーター
また独立系市場には、買収のプロとも言えるコンソリデーターの存在がある。彼らも証券営業に携わっているが、むしろ買収による拡大を生業としていると言ってもよい。アドバイザーが、彼らに買収されることを選ぶのは、大手の傘下に入ることで、商品やシステム供給業者への交渉力が増す他、本社的な機能を任せられるようになるからである。
コンソリデーター自身も証券営業に携わっていることから、独立系アドバイザーの痒いところに手が届くようなシステムを自社開発している場合も少なくない。こうしたことが魅力となり、2021年第一半期の買収・合併案件を見ると、その5割弱がコンソリデーターによる買収である。
3割弱を占めるその他には、プライベート・エクイティ・ファンドも含まれているが、彼らとコンソリデーターは2つの点で異なる。プライベート・エクイティ・ファンドが必ずしも、買収する企業の業種を絞るとは限らず、最終的には売却によるエグジットを目指すのに対し、コンソリデーターは自らも証券営業を展開し、規模の拡大による効率化を目指し続ける。
このようなコンソリデーターの一つであるフォーカス・ファイナンシャルは、2004年の創業来、200件以上の買収を繰り返してきた。2018年には上場を果たし、現在は71社のパートナー業者を有し、これらを合わせた従業員数は4,000人を超える。買収メニューも、経営者やブランド、オペレーション等を買収前のまま維持するパートナー型、効率化を求めてオペレーション等の統合を目指すコンソーシアム型、パートナー業者による他社買収支援、有望アドバイザーへの独立支援と独立を機にした出資等と、多岐にわたる。
コンソリデーターによっては、自社開発のシステムを貸す等、買収未満のメニューも用意しているところもある。いずれにせよ、アドバイザーが営業に専念できる形態をとれるよう、工夫を凝らしているのである。
結びにかえて
今や、米国の独立系アドバイザー業界は、人数でも預かり資産でも大手証券を抜いて最大勢力となっており、その勢いは留まるところを知らない。ではこれらアドバイザー大手は、伝統的な金融機関の様相を呈していくのであろうか。筆者は現状では、その可能性があるとしても、当分先のことであろうと考えている。顧客本位な業務運営が、従来以上に求められているからである。
顧客本位な業務運営とは、単に高手数料や系列商品、回転売買を避けることに留まらない。文字通り、顧客ごとに最善の利益に資するアドバイスを提供することが求められているが、アドバイザー一人で多様な顧客全てに対して、顧客本位なアドバイスを提供することは現実的ではない。
そこで、各アドバイザーは、企業理念とも言える自らのアドバイス方針を掲げ、これに賛同する個人を取捨選択しながら顧客として取り込んでいかざるを得なくなる。
つまり今後は、経営理念や営業方針が多様なアドバイザーが、自分の個性を消さないように工夫しながら、緩い連合体を形成して規模の経済を追求していくことが必要となろう。独立系アドバイザーがその先駆者となっているとすれば、多様性を維持したまま、今後ますますの発展が期待できよう。