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米国に見る大手金融機関と独立系アドバイザーの違い(寄稿:沼田優子氏)

明治大学国際日本学部 特任教授の沼田優子氏に米国のアドバイザー業界の変遷についての寄稿を頂いた。沼田教授は長年に渡り米国の個人向け金融サービスや金融機関の販売チャネルを研究されており、2020年12月にも「IFAとは何者か―アドバイザーとプラットフォーマーのすべて」を上梓されている。

本コラムは、全5回のシリーズを予定しており、第3回は「米国に見る大手金融機関と独立系アドバイザーの違い」というテーマである。

目次

顧客がアドバイザーに求めるもの

系列運用業者を持つ大手証券に比べ、独立系アドバイザーは中立的なアドバイスを提供しやすいと言われている。確かに組織のあり方や人事制度により、やりやすい営業手法はあろう。

しかし、顧客の最善の利益に資する行動が義務付けられれば、アドバイスの中立性は当たり前となる。むしろ、大手金融機関と独立系アドバイザーの違いは、組織の規模による、顧客の期待の違いに起因すると考える。

大手金融機関の顧客は、どの営業担当者が対応しても、そのブランドのイメージから思い浮かぶサービスを期待する。金融機関はその期待を裏切れないため、サービスの均質化を進めざるを得ない。

このことにより、サービスの質は担保されるであろう。しかし実は、サービスの上振れも制限される。サービスのばらつきにより、ブランドが棄損しかねないからである。

また証券業の場合、付加価値と言えば、まずは高パフォーマンスであろう。しかしこれが、高リスクや複雑な仕組みの商品、希少性、高ボラティリティに起因しているとしたら、本当に顧客本位なサービスかは、慎重に検討されなければならない。

よってアドバイザーは、顧客とゴールのすり合わせを最初に行い、そこから長期にわたって大きく乖離しない手腕が、むしろ問われる。

独立系アドバイザーの守備範囲は広い

米国に見る大手金融機関と独立系アドバイザーの違い(寄稿:沼田優子氏) IFA転職コラム

ただし独立系アドバイザーの場合は、顧客本位な業務運営を原則としながらも、顧客と設定するゴールの守備範囲がとても広い。特に不要なサービスをそぎ落としてコストを下げる提案ができるのは、巨大なインフラとその固定費を抱える大手金融機関にはない強みである。

こうして、アドバイスを柔軟に設計してきた米国の独立系アドバイザー業界からは、様々なイノベーションが生まれた。ETFだけで作るポートフォリオやロボ・アドバイザーの一任運用と対面営業との融合、営業担当者が自由にポートフォリオを構築できるSMAやファンドラップ(営業マンの一任)、電子メールやSNS等を活用した顧客リレーションシップの構築、ポートフォリオのリスク・ドリフトを管理するツール、機械学習と自然言語処理機能を組み込んだ営業行動のレコメンデーション・ツール等、枚挙にいとまがない。

「アドバイザーのα」が広く知られるようになったのも、独立系のインプットがあったからであろう。「アドバイザーのα」とは、パフォーマンスの押上効果(合計3%程度)が実証された、アドバイザーによるアドバイスの総称である。その内訳は、投資家のパニック売りを諫めるような「投資家コーチング(150ベーシス・ポイント)」、税制優遇措置の異なる多様な口座のどれにどの資産をどの程度積み立てるかを計画する「アセット・ロケーション(0~75ベーシス・ポイント)」、こうして形成された資産をどのように取り崩すかの計画をたてる「引き出し戦略(110ベーシス・ポイント)」等である。

さらに米国独立系アドバイザーの多くが残高手数料制を採用するのは、アセット・アロケーションや銘柄選択に留まらない、多様なアドバイスを組み込みやすいからでもある。実際、大手運用業者フィデリティの調査によれば、残高手数料と引き換えに提供するサービスは、運用(93%)が多いのは当然として、ファイナンシャル・プラニング(79%)、税最適化(69%)、税最適化を見据えた慈善活動プラニング(56%)等が続く。

特にこの慈善活動プラニングは、過去5年で組み込み比率が20%ポイント近く上昇した流行りのアドバイスである。独立系市場では、取引に直接結びつかないこうしたアドバイスの多様化を受け、これらにも対価を支払うことの抵抗感が薄れていった。

そのため最近では、「預かり資産」ではなく、「アドバイス資産」に一定の料率を掛け、手数料を算出することさえある。例えば確定拠出年金は自助努力による運用が求められるが、残高が数十万ドルにも及ぶと、自らの投資判断に自信を持てない個人も多い。そうした個人に対して、預かっていない確定拠出年金の採用銘柄比較やポートフォリオ構築等のアドバイスも行い、その対価を得るのである。

独立系市場はイノベーションの宝庫

もちろん、大手金融機関にも、これらのアドバイスを提供するリソースはあり、彼らが提供し始めることで、業界標準となったものもある。

しかし大手の場合、コンプライアンスの負担を考えると、大きな裁量はごく少数の選ばれたトップ営業担当者にしか与えられない。また一般向けのアドバイスやツールは、全社的に導入するに足る潜在需要と採算が見込めなければ、手掛けることは難しいであろう。つまり、イノベーティブなサービスを大手金融機関が導入するまでには、時間差があることも少なくない。

こうした米国の事例に倣えば、独立系アドバイザーのアドバイスは、創意工夫次第で無限の可能性を秘めている。我が国においても、イノベーションの発信源としての役割は、大いに期待できるのではないか。

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この記事を書いた人

沼田 優子のアバター 沼田 優子 明治大学国際日本学部 特任教授 

東京大学経済学部を卒業後、野村総合研究所入社。NRIアメリカ、野村資本市場研究所、野村證券を経て2012年より明治大学国際日本学部。2018年より現職。主に米国の個人向け金融サービス、金融機関の販売チャネル等の研究に従事。2020年12月『IFAとは何者か―アドバイザーとプラットフォーマーのすべて』を上梓。

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