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退職意思の伝え方について(寄稿:弁護士 佐賀寛厚氏)

ご転職希望者の皆様からよく頂くご質問に関して、檜山・佐賀法律事務所の弁護士  佐賀寛厚氏にご解説頂きました。

全4回連載で予定をしておりまして、初回は「退職意思の伝え方について」です。

目次

会社の退職方法について

会社を退職する方法としては、どのようなものがあるでしょうか?

 会社を退職するためには、大きく分けて①雇用契約の一方的な解約の意思表示により雇用契約を終了させる場合(退職の意思表示)と、②会社との合意によって雇用契約を解約する場合(合意解約の申込み)があります。

退職時の雇用契約の違い

①退職の意思表示と、②合意解約の申込みはどう違うのでしょうか?

 ①退職の意思表示の場合には、会社に対する一方的な意思表示で退職できますが、②合意解約の申込みの場合には、会社の承諾がない限り、雇用契約が終了せず、退職できません。

そのため、会社が退職を承諾してくれる場合には、どちらの方法も変わりませんが、会社が退職を認めず、引き留めを受けるような場合には、②合意解約の申込みだと、なかなか退職できないということになってしまいます。したがって、退職の意思が変わらず、すぐにでも退職したいという場合には、①退職の意思表示により退職する方がよいです。

一方的な退職意思について

社員から会社に対して一方的に退職の意思を伝えた場合、会社の承諾がなくても法的に有効な退職となるのでしょうか。

 ①退職の意思表示であれば法的に有効です。正社員(無期契約社員)については、いつでも雇用契約の解約を申し入れることができ、雇用契約は、当該退職の意思表示の日から2週間を経過することによって終了すると定められています(民法627条1項)。そのため、例えば、令和2年1月5日(火曜日)に退職の意思表示をした日(初日は含めません。)から2週間後である1月15日(火曜日)に雇用契約が終了し、退職となります。

 なお、労働者から退職の申出がなされた場合、労働者において、確定的に雇用契約を終了させるという意思が客観的に明らかな場合に限って①退職の意思表示であると判断されており、それ以外は②合意解約の申込みと判断される傾向にあります(広島地方裁判所昭和60年4月25日判決、大阪地方裁判所平成10年7月17日判決など)。

 したがって、①退職の意思表示をするのであれば、退職届に、日付を明記し、退職する旨の意思を表明するべきです(退職願では不十分な場合が多いです。)。

退職時のトラブルについて

弊社のご相談で、「引き留めや、引き継ぎを理由に退職できない」というご相談をよく頂くのですが、法的にはいかがですか?例えば次のような質問がございました。

”私は正社員です。私は、会社に対して、2週間後に退職する旨の退職の意思表示を行ったのですが、上司から、「就業規則で、退職する場合には、退職の1か月前までに退職届を提出する必要があると規定されているため、退職届が出されてから1か月間はしっかり働いてもらう。」とか「就業規則で、引継ぎを完了するまでは退職できないと規定されているため、引継ぎが完了するまでは働いてもらう。」と言われたのですが、私は上司の命令どおり、働く必要があるのでしょうか。”

 その必要はありません。先ほどご紹介した、民法627条1項の内容に反する内容を定めても、その内容を無効となると解されています(強行規定。福岡高等裁判所平成28年10月14日判決など)。

 したがって、退職届を提出した日から2週間を経過することで、当然に雇用契約は終了しますので、ご質問のような就業規則の規定に従う必要はありません。

退職時の引き留めについて

また、次のようなご質問もございました。

”会社に退職の意思表示を行ったのですが、上司から、「絶対にやめさせない。今、君が辞めたら会社に損害が出るため、もし辞めるなら、その損害全額を請求する。」とか「転職先に対して、君の悪評を伝えるから、会社の承諾なく退職しても損だよ。」などと脅されたのですが、このような場合、どのようにすればよいでしょうか。” 

会社側から強行な引き留めにあうケースは少なくなく、場合によっては、脅迫まがいのことをされたり、不利な書面等に強引に署名押印させられることもあります。そのような場合には、無理にご自身のみで対応せずに、弁護士に相談されることをお勧めします。また、脅迫まがいの言動があった場合には、そのような言動を録音しておき証拠を保全するというのも1つの方法だと思います。

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この記事を書いた人

佐賀 寛厚のアバター 佐賀 寛厚 檜山・佐賀法律事務所

京都大学・京都大学法科大学院卒業後、2008年弁護士登録し須藤・高井法律事務所入所。2014年きっかわ法律事務所入所。2020年檜山・佐賀法律事務所 開設。また、2014年〜2019年まで京都大学法科大学院の非常勤講師を務める。企業法務・労働事件を中心に幅広い業務を取り扱う。

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