SMBC日興証券は、三井住友フィナンシャルグループ(8316)傘下の証券会社だ。
1918年に、川島屋商店として遠山元一が創業した。1998年にトラベラーズ(現米投資銀行シティグループ)と提携したことをきっかけにシティグループの日本法人が親会社として投資銀行部門を拡大した。
金融危機後の対応の一環としてシティグループが日興グループを売却したことで、2009年に三井住友フィナンシャルグループの傘下となった。
SMBC日興証券の分析(2022年3月末時点)
役職員数:11,105名(内海外拠点人員数784名)
資産合計:14兆1,420億円
純資産:9,473億円
固定化されていない自己資本:6,542億円
リスク相当額:2,042億円
自己資本規制比率:320.3%
【図表1】2022年3月期決算
- 部門毎の重複があるため、各部門の決算数字の合計は連結決算の値とは一致しない。
収益ベース・利益ベース共に営業部門が過半を占めている。企業や政府向けに株式や債券の引き受け、M&Aアドバイザリーを担うグローバル・インベストメント・バンキング部門と対機関投資家向けに株式や債券の売買仲介を担うグローバル・マーケッツ部門の収益面での貢献度はほぼ同等だ。
SMBC日興証券単体での財務基盤についても問題はなさそうだ。
親会社の三井住友フィナンシャルグループ全体で見ても金融危機時においても金融機関が業務を継続するために必要な、損失吸収力の高い自己資本(普通株式や名部留保など)を分子として、これをリスク・アセットで割った連結総自己資本規制比率は18.61%となっており、国際基準とされる最低自己資本比率4%を大幅に上回っている。
なお世界の大手金融機関の連結普通株式等Tier1比率は15%前後が一般的だ。
SMBC日興証券の営業部門の分析(2022年3月期)
一般的に世間でイメージされる証券会社の業務だ。主に日本国内の個人富裕層や法人の資産運用に関わるビジネスを行っている。
- 国内のSMBC日興証券店舗数:110店舗
- 国内の顧客資産残高:69.8兆円
- 総口座数:376.1万口座
- オンライントレード契約口座数:266.6万口座
- 株式・CB取引のうち、オンラインサービスを通じて売買された割合
- 売買件数ベース:98%
- 売買金額ベース:33%
- 個人新規開設口座数:19.2万口座
- 資産導入額:5,958億円
【図表2】総合口座数と顧客資産残高の推移
直近3年間で総口座数は345万口座から376万口座へと8.9%増加している。顧客資産残高についても株式の時価変動による影響が大きいものの、年間で数千億円規模の新規資産導入を確保している。
口座数及び預かり資産を順調に伸ばしている背景としては、三井住友フィナンシャルグループの子会社であることから、同グループの三井住友銀行からの顧客紹介を期待できるという背景がありそうだ。実際にSMBC日興証券と三井住友銀行の共同店舗化を一部で進めている。
また株式のオンライントレードにも特徴がある。国内株式のネット取引専用コースの取引手数料はネット証券並みの低水準であり、信用取引に至っては委託手数料が0円のコースまである。そのため、株式取引のうち、オンライントレードの比率は売買件数ベースで99%にも上っている。
ただし、売買金額ベースではオンライン比率は33%に留まる。すなわち総口座数は増加傾向にあるものの少なからず顧客が株式の取引手数料の安さに魅力を感じている顧客であり、こうした顧客層の収益貢献度は低いと思われる。
しかし、対面証券会社はネット証券との競争に晒されていることから収益への貢献度は低くとも、ネット証券に対抗可能なサービスを提供して幅広い顧客層を確保しておくことの合理性はあるとの経営判断をしていると考えられる。
オンラインサービスの重視が見て取れる一方で、国内営業店舗については近年統廃合を進めてコスト削減を図っている。
SMBC日興証券のグローバル・インベストメント・バンキング部門の分析
主に企業や政府の発行する株式・債券の発行・引受、M&Aアドバイザリーなどを行っている部門だ。
【図表3】グローバル・インベストメント・バンキング部門の収益内訳(2022年3月期)
日本国内における株式引受、債券引受、M&Aのシェアはいずれも10%強程度で推移しており、当該業務において大手の一角を占めている。
証券会社ごとのホールセール部門における実績をまとめた2021年度のリーグテーブルでは、日本企業の関わるグローバル株式3位、円債総合主幹事5位、日本国内の新規公開株式引受金額ベース1位/件数ベース2位、日本企業の関わるフィナンシャルアドバイザリー業務取引金額ベース7位/件数ベース1位となっている。
SMBC日興証券のグローバル・マーケッツ部門の分析
主に対機関投資家向けの株式や債券の売買仲介を行っている部門だ。
【図表4】金融収支調整後トレーディング損益(2022年3月期)
収益への貢献度は株式の方が大きい傾向がある。株式については年間の株式委託売買代金が10兆円前後、株式委託手数料が年間500億円前後、東証売買代金シェアが2~3%で推移している。
グローバル・マーケッツ部門は市況変動の影響が大きく、業績は時期によって大きくぶれている。地域別では国内の収益が6~7割を占めており、国内市場の影響が大きいと見られる。
2021年11月にSMBC日興証券が株価操縦疑惑により証券等監視委員会の調査を受けたと発表された。翌2022年3月にはエクイティ部門の幹部4人が相場操縦(金融商品取引法違反)容疑で逮捕された。
この事件の影響で顧客がSMBC日興証券との取引を控える動きが出た結果、2022年3月期の決算ではSMBC日興証券全体で収益に100億円程度の影響が出たとされている。