証券会社の退職金について、他の仕事より高いイメージを持つ方も多いだろう。実際のところはどうなのだろうか。当記事では証券会社の退職金の相場について、公的資料を基にして解説していく。
ただしあくまで推測値となるので、参考程度に読んでいただけると幸いだ。
証券会社で定年した場合の退職金相場
国や民間企業のデータにおいて、証券会社の定年時の退職金をピンポイントで割り出すのは困難であるため、金融業界全体での数値などから相場の推測を行う。
証券会社(金融業・保険業)の退職金の考察
東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」によると、金融業・保険業(大卒のみで高卒のデータなし)の退職金平均額1,725万5,000円となっていた。同調査においては、他の産業と比較してもっとも多い金額である。産業全体の平均1,118万9,000円の約154%だった。
続いて大企業の平均金額については、厚生労働省の「令和元年賃金事業等総合調査」のデータを引用する。定年まで勤めた場合における産業全体の退職金平均額は2,289万5,000円となっており、中小企業のものと1,000万円以上の開きがあった(業界別のデータは公表なし)。
以上を考えると、金融業・保険業においても大企業の退職金額は、1,725万5,000円よりも高い数値となるだろう。単純に大企業と中小企業の金額に1,000万円の差があると仮定して平均と取った場合、金融業・保険業全体の退職金の相場は約2,200万円との推定値が出せる。
次に割合で考えてみる。大企業平均2,289万5,000円を金融業・保険業の上昇値154%として約3,526万円とし、中小企業の平均額1,725万5,000円の平均を取ると、約2,625万円となる。
あくまで推測の話ではあるが、証券会社勤めの退職金の相場は2200万~2,600万円と、産業全体の平均額よりも高額となるのではないだろうか。
他業界の退職金の平均額について
前述と同じく「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」を参考に、他業種の平均退職金額を紹介する。証券会社との比較の意味で、大卒のみの数値を以下に引用した。
業種 | 平均退職金額 |
---|---|
建設業 | 1,313万8,000円 |
製造業 | 1,148万7,000円 |
情報通信業 | 1,154万5,000円 |
運輸業・郵便業 | 893万2,000円 |
卸売業・小売業 | 1,088万4,000円 |
不動産業・物品賃貸業 | 1,353万7,000円 |
学術研究・専門・技術サービス業 | 1,007万1,000円 |
生活関連サービス業・娯楽業 | 1,104万2,000円 |
教育・学習支援業(学校教育を除く) | 656万9,000円 |
サービス業(他に分類されないもの) | 996万円 |
大企業との平均で考えた場合は、表の数値+500万~1,000万円程度で相場を推測するとよいだろう。
勤続年数別の証券会社の退職金相場
「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」には、勤続年数ごとの平均退職金額もまとめられている。金融業・保険業における自己都合退職と会社都合退職での金額の相場について、以下でご紹介する。
勤続年数(年齢) | 自己都合退職 | 会社都合退職 |
---|---|---|
1年(23歳) | 6万9,000円 | 15万9,000円 |
3年(25歳) | 29万4,000円 | 44万2,000円 |
5年(27歳) | 50万7,000円 | 72万円 |
10年(32歳) | 118万9,000円 | 164万5,000円 |
15年(37歳) | 243万9,000円 | 296万3,000円 |
20年(42歳) | 420万1,000円 | 477万7,000円 |
25年(47歳) | 639万円 | 720万3,000円 |
30年(52歳) | 956万5,000円 | 1,034万5,000円 |
33年(55歳) | 1,109万9,000円 | 1,170万1,000円 |
定年(60歳) | なし | 1,725万5,000円 |
仮に大企業を対象にした同様のデータがある場合は、金額はもう少し上がると考えられる。
表からわかるのは、金融業・保険業においても勤続年数が多いほどもらえる退職金額は増え、また上昇率も年を重ねるごとに上がっていく点だ。
とはいえ2022年現在では、年功序列から実力主義評価に変化しつつある。勤続年数・職能・職務等級・役職などの評価をポイントとし、各従業員に付与してポイントに応じた退職金が設定される「ポイント制退職金」の導入も進んでいる。
退職所得控除や確定申告などの税知識について
退職金は数千万円レベルの大金が一度に支給されるため、退職金にまつわる税金関係の仕組み・手続きについて気になる方も多いだろう。
結論から言えば、退職金の課税や手続きに関しては、通常の税申告より非常に優遇されている。詳細を見ていこう。
退職所得はもっとも優遇された所得
退職金を受け取ったときは、給与所得や一時所得ではなく「退職所得」として計算する。退職所得は分離課税であるため、総合課税として他の所得とは合算せずに、単独で税計算を行う。
この退職所得は税制上非常に優遇された所得となっている。
国税庁によると、退職金は「長年の勤労に対する報償的給与」として支払われるものとされている。簡単に言えば「長年働いてくれた対価として支払うのだから、税金があまりかからないようにしよう」と、国が定めているのだ。
まず優遇点の1つとして、退職所得に対する控除は給与所得控除などよりも格段に大きい点が挙げられる。退職所得控除の計算式は次のとおりである。
【勤続年数が20年以下】 40万円✕勤続年数(計算して80万円に満たなかった場合は80万円) 【勤続年数が20万円超】 800万円+70万円✕(勤続年数-20年) |
例えば大卒で60歳まで勤めた場合、退職所得控除の計算は「800万円+70万円✕(38-20)」で、退職所得控除は2,060万円となる。つまり、仮に退職金が2,000万円であっても控除額のほうが大きいので、税金が一切かからなくなるのだ。
もし退職所得控除でも控除しきれなかったときも、退職所得金額を2分の1にするもう1つの優遇制度がある。退職所得控除を適用した後に金額が200万円となった場合、200万円ではなく100万円が最終的な退職所得となる。
この退職所得の金額に税率を乗じ、さらに金額に応じた税額控除額を差し引いた後に残った金額が納める税金だ。税率は累進課税制度が適用されている。
以下では定年まで証券会社に勤めるケースで、退職金のシミュレーションを実施した。退職金は2400万円とする。
- 退職所得控除額=800万円+70万円✕(38年-20年)=2,060万円
- 退職所得=(2,400万円-2,060万円)✕1/2=170万円
- 退職金の課税額=所得税(170万円✕5%-9万7,500円)+住民税(170万円✕10%)+復興特別所得税(170万円✕2.1%)=25万6,785円
退職金の手取りは2,374万3,215円と、支給額の約99%も上る。
確定申告するかは選択できる
退職金を受け取った後、確定申告が必要かどうか心配な方は多いだろう。結論から言えば、退職金に関しては必ずしも確定申告をする必要はない。
なぜなら、支払われる段階で源泉徴収(企業側があらかじめ納税する予定の金額を差し引き、後に企業側で納税する仕組み)がなされており、支給時点で納税分が差し引かれているためだ。退職金に関する源泉徴収票も交付される。
とくに退職金支払者にあらかじめ「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、支払者側で正確な税額を計算して源泉徴収を実施してくれる。個人的に住宅ローン控除やその他の制度を利用しない限りは、確定申告は必要ない。
一方で申告書の提出がない場合は、支払者側で一律20.42%の源泉徴収がなされる。そのままでも確定申告の必要はないが、退職金において20.42%もの税額が引かれるのは非常に高額だ。そこで確定申告を行うことで、払いすぎた税金を還付金として取り戻せる。