金融機関では、取り巻く環境の大きな変化を受けて、リスク管理体制の強化の必要性が高まっている。それに伴いリスク管理部門の求人情報も増加傾向となっており、金融機関出身者の転職先のひとつの選択肢となっている。
そこで本記事では、金融機関のリスク管理部門への転職に求められる人材や業務内容について解説していく。
金融機関がさらなるリスク管理を求められている背景
金融機関でさらなるリスク管理強化が求められている背景として、「新自己資本比率規制(バーゼルⅢ)」による自己資本への規制が強化されたことは言うまでもない。普通株式や総資本に対する規制を段階的に定めたバーゼルⅢは、リーマンショックの教訓として定められたものである。
金融機関としては、短期的な利益の追求や融資審査の形骸化、リスクの見落としによって、同じような国際金融危機を引き起こしてはならないという責務がある。そこで経営におけるガバナンス強化のために、リスク管理部門の人材強化が求められているのだ。
また、金融業界を取り巻く大きな環境の変化も、リスク管理が強化されている要因のひとつだ。長引く低金利による市場環境の変化、金融犯罪の多様化、ハッキングによる情報の不正取得など、金融機関が対応すべきリスクは年々増加している。
経営を脅かすリスクに対して組織的に管理するためにも、中途採用による専門人材の強化は欠かせないだろう。
金融機関におけるリスク管理業務の種類
金融機関のリスク管理部門は、主に次の4つの部門に分けられる。
・信用リスク管理
・市場リスク管理
・流動性リスク管理
・オペレーショナルリスク管理
それぞれどのような業務を手掛けているのか解説していこう。
信用リスク管理
信用リスクは、貸金業を担う金融機関で発生するリスクのひとつだ。融資先の企業が倒産したり、財務状況が悪化したりすることによって、金融機関が貸金を回収できなくなるリスクである。
金融機関ではこうした信用リスクに対して、融資先企業の信用リスクを適切に評価することや、特定の企業や業種に偏った融資を行わないことなどが求められる。具体的には、次のような業務が挙げられる。
・信用リスク評価に対する基本方針の策定、見直し
・定期的なモニタリングの実施
・金融機関が抱える信用リスクの分析
上記のような業務では、金融機関の融資業務への理解はもちろん、関連法案やリスク算出に対する知識も必要不可欠である。
市場リスク管理
市場リスクとは、金融市場の動向によって金融機関が保有している資産価値が減少するリスクを指す。株式や債券、外貨など様々な金融資産を保有している金融機関では、金融市場の変動によって資産が目減りするリスクを抱えている。
金融市場の動向によって生じる損失が企業の財務体力を超えるものであれば、経営を揺るがす要因にもなりかねない。そのため、金融機関は次のような施策を講じることで市場リスクの管理を行っている。
・金融資産ポートフォリオによって生じるリスクの算出
・許容できるリスクの限度の制定
・保有資産に対するモニタリング
上記の業務では、市場リスクの計測方法に対する専門的な知識が必要となることから、証券アナリスト(CMA)の資格保有者を採用の条件とすることもある。
流動性リスク管理
流動性リスクとは、金融機関が業務を行う上で必要な資金を確保できず、資金繰りに困窮することを指す。資金繰りが立ち行かなくなると、通常の水準よりも高金利で資金調達を行うこととなるため、金利支払いによる損失を被る懸念がある。
資金繰りの悪化は金融機関の財政状況の悪化によって生じることもあるが、株価の下落や風評被害によって発生するケースもある。金融機関ではそうした流動性リスクに対して、次のような対策を講じている。
・資金繰り状況の把握・調整、モニタリング
・資金繰りに関する基本的な方針の立案・見直し
・資金繰り状況の定期的な報告
金融機関にとって、資金繰りは事業の要ともいえる部分だ。資金繰りが追い込まれる前に早期に対処することで、資金調達コストを抑えられる効果があるため、求人情報も金融機関経験者に限定されていることが多い。
オペレーショナルリスク管理
オペレーショナルリスクとは、システムや人的要因によって業務に支障が出るリスクである。例えば、システムの誤作動やハッキングにより顧客の取引に影響が出た場合、顧客に損失が生じることに加えて、金融機関側も甚大な損害を被ることとなる。
システムだけでなく、従業員の事務的なミスや不正行為によって顧客の取引に影響が出るケースもある。場合によっては顧客からの訴訟に発展することもあるため、従業員の事務の堅確化やマニュアルの整備が求められる。
その他オペレーショナルリスクは、「法務リスク」や「有形資産リスク」など多くのリスクが内在しており、リスク管理部門は幅広い分野のリスクチェック、分析を行う必要がある。
金融機関リスク管理部門への転職で必要とされる人材とは?
ここまで、金融機関のリスク管理部門が担う業務内容について解説してきた。4つのリスク管理部門はどれも高度な専門知識が必要とされる業務である。金融機関のリスク管理部門への転職にはどのような人材が必要とされるのだろうか。それぞれ詳しく解説していこう。
金融機関の経験者
リスク管理部門は金融機関の中枢でもあることから、金融機関経験者を中心に中途採用している例が多い。それも現場での営業経験ではなく、実際のリスク管理業務に携わっていた人を積極的に採用している。
高度な専門知識が必要となるリスク管理部門では、未経験者を1から教育していくよりも、既に業務経験がある人を採用した方が効率も良い。金融機関の転職というと、営業担当者のステップアップをイメージするかもしれないが、本部勤務の経験を活かして転職することも可能だ。
市場金融業務やコンプライアンス、リスク統括に関する部署での業務経験がある人は、金融業界内でリスク管理部門に特化した転職を検討してみよう。
システム開発の技術者
金融機関のリスク管理部門への転職は、業界出身者が有利な傾向にあるが、システム開発技術を持っている人はその限りではない。
リスク管理のシステムは外注されることもあるものの、大手金融機関では社内SEを抱えている例もある。リスク管理システムの構築やメンテナンス技術を持つ人であれば、金融機関経験がなくても転職できる可能性があるだろう。
また、金融機関の完全子会社のシステム会社で求人情報が出ているケースもある。金融機関のリスク管理部門への転職を検討しているエンジニアは、子会社の情報までチェックしておくことがおすすめだ。
関連資格の保有者
金融機関のリスク管理部門では、高度な専門知識が求められることから、関連資格の保有者を歓迎条件としていることが多い。
例えば、前述のように市場リスク管理部門では、保有資産によって生じるリスク算出の業務を手掛けているため、証券アナリスト(CMA)の保有者が好まれる傾向にある。転職によるステップアップを目指している人は、先に関連資格を取得しておくことも検討しよう。
強みを活かして転職活動に取り組もう
本記事では、金融機関のリスク管理部門への転職に必要とされる人材や業務内容について解説してきた。金融機関のリスク管理部門は中枢ともなる業務を担っており、高い専門性が求められる。
中途採用ではリスク管理業務の経験者が有利な傾向にあるため、金融機関で本部勤務経験がある人は、ぜひリスク管理部門への転職も視野に入れるとよいだろう。