野村グループは、初代野村徳七が始めた両替商に端を発した。跡を継いだ2代目野村徳七が設立した株式会社大阪野村銀行(後の大和銀行、現りそな銀行)の証券部が1925年に分離して、(旧)野村證券となった。
2001年、(旧)野村證券は持株会社への移行に伴い、野村ホールディングスと(新)野村證券株式会社に機能を分割した。この(新)野村證券が野村グループの証券業務における中核会社だ。
本記事において野村グループの持株会社である野村ホールディングス株式会社を「野村HD」、証券業務の中核会社である(新)野村證券株式会社を「野村證券」と記載する。
野村HDの分析(2022年3月末時点)
役職員数:26,585名(内日本:15,213名)
資産合計:43.4兆円
株主資本:2.9兆円
リスク・アセット:15.9兆円
連結普通株式等Tier1比率(バーゼル3):17.1%
【図表1】2022年3月期決算
収益ベースで見るとホールセール部門が過半を占めているが、税前利益ベースでは主要3部門の貢献度は横並びだ。ホールセール部門は、対機関投資家向けの株式や債券の売買仲介、株式・債券の発行・引受、M&Aといった投資銀行業務を行っている部門だ。
ホールセール部門は大企業や機関投資家といった規模の大きい顧客を扱うため、収益規模も大きくなる。一方で、市況に大きく影響を受けるビジネスモデルであるため収益及び利益のブレ幅が大きくなる。
また、野村HDの財務基盤は強固であるといえる。
金融危機時においても金融機関が業務を継続するために必要な、損失吸収力の高い自己資本(普通株式や名部留保など)を分子として、これをリスク・アセットで割った連結普通株式等Tier1比率は17.1%となっており、国際基準とされる最低自己資本比率4%を大幅に上回っている。
なお、世界の大手金融機関の連結普通株式等Tier1比率は15%前後が一般的だ。
野村HDの営業部門の分析(2022年3月期)
一般的に世間でイメージされる野村證券の業務だ。主に日本国内の個人富裕層や法人の資産運用に関わるビジネスを行っている。
- 国内の野村證券店舗数:119店
- 国内の顧客資産残高:122.1兆円
- 残あり顧客口座数:534.8万口座
- 株式保有口座数:295.5万口座
- オンラインサービス口座数:505.7万口座
- 現物株のうち、オンラインサービスを通じて売買された割合
- 売買件数ベース:83%
- 売買金額ベース:59%
- 個人新規開設口座数:20.1万口座
- 現金本券差引:3,510億円
【図表2】残あり口座数と顧客資産残高の推移
直近5年ほどの残あり顧客口座数は530万口座前後で安定して推移している。顧客資産残高についてもコロナショックの影響で株価が下落した2020年3月を除けば、概ね120兆円前後で安定している。
ネット証券やIFAの成長に伴い、対面証券は厳しい状況に追い込まれるとする意見は根強いが、少なくとも野村證券においては成長こそしていないものの安定した顧客基盤を維持しているようだ。
もちろん高齢顧客が投資運用をやめてしまうケースや既存顧客がネット証券やIFAに移行してしまうケースもあると思われるが、年間20万件前後の個人口座新規開設で補っている。いわゆる資金の流出入にあたる現金本件差引については年によって、-4,000億円の流出から2兆円の流入までとバラつきが大きく市場環境と投資家マインドの変化による部分が大きいようだ。
しかし、現金本件差引の与える影響は、最大でも顧客資産残高の2%程度にとどまっていることから、顧客資産残高に最も大きな影響を与えているのは株価動向(エクイティ、株式投信部分の価格変動)といえるだろう。
また近年は、地域金融機関との提携を進めている。地方銀行の証券口座を野村證券に移管すると同時に、法人部門を除く当該地域の営業店を閉鎖、営業人員を提携先の地方銀行に出向させ、当該地域における新規開拓・営業は提携先の地方銀行が行う形になっている。
地方銀行側のメリットとしては、証券口座の管理コスト削減と野村證券の資産運用及び営業ノウハウの活用が挙げられる。野村証券側のメリットとしては、地方銀行が従来保持していた地域に密着した顧客基盤から、新たな顧客を獲得できる点が挙げられる。
【図表3】営業部門の収益内訳(2022年3月期)
収益の柱は株式の委託売買手数料、投資信託募集手数料、債券・保険等の金融商品の販売報酬といった金融商品の売買に伴う手数料収入が過半を占めている。
また、現物株がオンラインサービスを通じて売買された割合は、売買件数ベースで83%、売買金額ベースで59%まで伸びており、ネット証券と比べて高い手数料水準でありながらも対面ビジネスを補完する形でオンラインサービスを顧客に一定程度浸透させることにも成功している様子が見て取れる。
一方で、いわゆるストック収入と呼ばれる投資信託残高報酬が収益に占める割合も33.3%まで伸びており、手数料収入に依存しない資産管理型ビジネスの側面が徐々に強くなっている傾向が伺える。
野村HDのインベストメント・マネジメント部門の分析
野村HDのグループ会社である野村アセットマネジメント株式会社が主に担っている部門だ。公募投資信託、ETF(上場投資信託)、私募投資信託、年金資産等の実際の運用を行っている。
【図表4】運用資産残高の推移(兆円)
日本国内におけるETF残高シェア43.5%で1位、公募投信市場におけるマーケットシェア26.8%で1位となっている。運用資産残高は順調に拡大している。
ただし、資金の流出入と資産価格の変動に伴う運用資産の変化の内訳が開示されていないため、野村HDの実力(運用パフォーマンス、マーケティング手法、営業力)の影響で運用資産残高が拡大しているのか、近年の世界的な資産価格上昇の波に乗っているだけなのかの見極めが困難だ。
また、プロダクト別・顧客別のおける運用報酬の水準の違い、成功報酬発生の有無といった影響もあるため、一概に運用資産が拡大すると収益・利益が拡大するとは限らない点は注意が必要だ。
実際に2022年度3月期は、前四半期比で運用資産が3.2兆円増加(+4.9%)であったにも関わらず、収益は1,480億円(前年同期比-9%)、税前利益は715億円(前年同期比-21%)の減収減益となっている。
野村HDのホールセール部門の分析
対機関投資家向けのエクイティ(株式)やフィクストインカム(債券)の売買仲介、株式・債券の発行・引受、M&Aといった投資銀行業務を行っている部門だ。
顧客は資産運用会社、年金基金といった機関投資家、株式や債券の発行体となる大企業・政府になる。
【図表5】ホールセール部門の収益内訳(2022年3月期)
ホールセール部門は野村HD全体で2022年3月期は最大の収益を稼いでいるが、業績のブレが大きく業績は不安定だ。
四半期毎にプロダクト・地域によって大きく収益が変動するため、ホールセール部門の収益動向を予想することは困難だ。傾向としては株価、金利等のマーケットのボラティリティが大きくなるとと、グローバル・マーケッツを中心に収益が拡大する傾向が見られる。
一方で、市場の急変動や不祥事によって思わぬ巨額損失が発生することもある。
例えば、2021年上半期はコロナショックに伴う金融市場の乱高下により顧客の取引が増加した結果エクイティ及びフィクスト・インカムの収益は好調だったが、2021年3月期第4四半期には米ヘッジファンドのアルケゴス・キャピタル・マネジメントに関わる取引で巨額の損失が発生し-1,659億円の税前損失となった。
また地域別では、日本の収益が比較的安定している一方で、米州の業績が大きく上下する傾向が見て取れる。