他社ががっつり喰いこんでいて、アプローチしたいお客さまとの距離が縮まらない。
営業現場ではいつも競合他社がでてくる。今回は3大証券を例に証券会社のデータ比較、営業担当が受けている人材教育の違いを紹介する。
ライバルの営業担当者がどのような研修を受け、どのような知識があるのかを知ることによって、先方とは異なるより魅力的な切り口で顧客にアプローチすることができるはずだ。
3大対面証券会社データ比較「野村証券の強さ」が際立つ
下の表は2021年3月期決算から抜粋したデータだ。
預かり資産、残あり口座(=残高がある口座)数と野村證券が圧倒的な強さを見せている。
野村證券 | 大和証券 | SMBC日興証券 | |
---|---|---|---|
預かり資産 | 122.1兆円 | 75.1兆円 | 69.8兆円 |
残あり口座数 | 534万8,000口座 | 303万8,000口座 | ※322万8,000口座(※総口座数) |
店舗数 | 119店舗 | 180店舗 | 110店舗 |
人員数 | 国内15,213人 | 連結15,529人 | 国内連結11,105人 |
また、大和証券の支店数の多さも目立つ。後述するが、近年大手証券会社の地方支店は撤退の傾向がみられる。今後の支店数の動向にも注目だ。
各社の人材育成
言い尽くされているが、証券会社は「人」が一番の商材だ。有価証券はどこの証券会社で買っても経済的効果は同じ。だからこそ、どこの証券会社で取引するのかは担当者次第ということになる。
本章では、大手3社の人材育成方針を掲載する。他社の営業担当がどのような教育を受け、どのようなスキルをもっているのかをうかがい知ることができる。
野村證券
野村證券には1971年から続く伝統の研修制度がある。支店に配属された新入社員はインストラクターと呼ばれる先輩社員から営業の基礎や考え方、社内での立ち振る舞いなどをしっかり教育される。1年を通じて続くインストラクターとのマンツーマン研修の中で、提案営業に必要な知識や強いメンタルが養われていくのだ。
その野村證券は2021年より新入社員を電話の問い合わせを受けるコンタクトセンターに配属するやり方に変更した。その理由は、「聴く力」を鍛えることにある。お客さまのニーズを迅速・的確に理解することに加え、雑談も交えながら顧客に気持ちよく話してもらえる力をつけることを目指している。
大和証券
社内資格「相続プランナー認定 ® 」制度が一番の特徴だ。大和証券では入社5年目までにCFPまたは証券アナリストを選択して取得する。相続プランナーは、CFPで得た知識に、実務に役立つ研修を受講することで認定される。
人材育成の観点からは少し外れるが、大和証券は数年前より「19時前退社」「女性役員登用」など働きやすさや、社員満足度を向上させる取り組みが取り上げられることが多い。
SMBC日興証券
SMBC日興證券も昨年より新人育成カリキュラムを変更させた。支店に配属後に取り組むのは新規開拓ではなく、電話対応や長年稼働していない「休眠口座」活性化を図る。また、上司、先輩に帯同してニーズを引き出すための話法などを学ぶ。
従前新人が担当していた新規開拓は部店長、管理職といった中堅、ベテランが取り組むことになった。職務内容だけでなく、管理職は社内の資格要件も変更された。
今まではAFP取得まででよかったが、昨年からはCFPまたは証券アナリスト第2次試験合格」を必須要件にした。取得しなければ管理職から降格、あるいは管理職に昇格できない。こうした背景によりSMBC日興のCFP受験者は2019年と2020年を比較すると約5倍に増加したという。
野村・大和の社員は地銀に出向の可能性も
野村證券は、2020年に山陰合同銀行、2021年に阿波銀行と業務提携を開始した。提携後は野村證券は顧客の口座管理を担当すると共に、社員を地域金融機関に出向させて営業の支援をする。地域金融機関は勧誘・販売アフターフォローを担当する。同様のスキームは今後、大分銀行とも取り組む。野村證券の営業ノウハウを提供すると共に、移換による預かり資産拡大が実現できる。同様の取り組みは今後、大分銀行とも進める。
ほぼ同様のスキームで、大和証券は2022年4月に四国銀行と業務提携を結んだ。2023年4月には四国銀行内に新部署を立ち上げ、大和證券の社員が100人規模で出向予定だ。
今後、大手証券会社の地方支店は、支店撤退が増え、社員は地銀に出向するルートが一般化する可能性もある。
また、同じお客さまにアプロ―チしている競合他社が地元地銀であった場合、相手の担当者はプロパーの行員ではなく証券会社から出向した社員である可能性があることにも注意したい。
まとめ
本稿では大手対面証券会社のデータと人材育成プログラムを比較した。競合他社の営業担当者のスキル知ることで、お客さまに対してどのように話しているのかを推察することができる。もし、自信に足りない場合は勉強すればよいし、場合によっては異なる切り口から攻める方法もある。この記事が皆さんの営業戦略の一助になれば幸いだ。