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地方銀行の抱える課題とこれからの展望

近年、地方銀行の再編が立て続けに実施されている。

その背景には、地方における人口と企業数の減少、低金利の長期化による貸出金利の引き下げ競争、ネット銀行等のあらたな形態を持つ銀行の台頭など、地方銀行を取り巻く厳しい状況がある。コスト削減と経営基盤強化を目指した地銀再編の流れは今後も拡大するだろう。

本記事は、地方銀行が現状抱えている課題、それに対して地方銀行や政府が現状講じている対策、そして将来、どのような展望が予想されるかについてまとめる。

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目次

衰退する地域経済と地方銀行

現在、地方銀行は預金・人員・店舗の「3つの過剰」が深刻かつ拡大している状況にあるといわれており、その直接的な原因の一つに、「地方における人口と企業数の減少」がある。

金融庁はこうした状況を鑑みて、従来のように財務の健全性だけを軸に置いて地銀経営を評価するのではなく、経営の持続可能性にも焦点を当てた評価体制への転換を試みている。

地元企業の生産性向上、住民の資産形成、そして地域経済の成長をもたらすような金融サービスの提供が、結果として地方銀行の収益改善に繋がる好循環を生み出すとの目論みだ。実際、ある程度の経済規模や人口があり、商業施設が集中した地域に存在し、それなりの競争シェアを有している銀行であればあるほど、経営パフォーマンスが有意に高いというリサーチ結果もある。

今後地方銀行が経営を持続的に成長させていくためには、自身が依拠する地域の企業と共に発展していくことが必要不可欠となってくるだろう。金融庁の評価軸の転換は、地方銀行は「顧客との共通価値の創造」を行ないながら地域と共に成長できるようなビジネスモデルを目指すべきという指針に基づいたものである。

具体的には、地方銀行が、従来のように安定的な担保・保証に依拠した堅実な融資判断を行うことを重点的に評価するのではなく、取引先企業の事業内容を吟味した上で行われた貸出、経営支援を評価対象にすることを目指している。

だがその一方で、地域に存在する中小企業への貸出は、担保を裏付けとした融資が困難な場合も多く、リスク管理が非常に難しい分野とされる。資本力においてはメガバンクや都市銀行に劣る地方銀行にとってそのリスクは相対的に大きなものになる。地域に密着しながら長期的な目線で業務に携われるという特性を活かすことで可能な限りリスクを引き下げ、勝算の高い融資を行っていく必要がある。

地方銀行は地域の中小企業と長期的に携わりながら、お互いにWinWinな関係を築いていくことで共に生き残る道を模索していくべきだろう。

地銀再編の規制緩和と事業範囲の拡大・見直し

地方銀行の抱える課題とこれからの展望 IFA転職コラム

現在、日本銀行は金利を下げて世の中に出回るお金を増やし、物価を安定的に引き上げようとしている。マイナス金利の導入もその一環である。

しかし、その政策は銀行の貸出金利を引き下げ、預金金利との差である利ざやを縮めて利益を削ることに直結する。低金利の長期化によって貸出金利の引き下げ競争が激化してしまった結果、地方銀行の利益は年々縮小の一途を辿っている。

2019年3月においては、地方銀行約100行の4割強が本業赤字の状態にあり、一部は赤字体質が慢性化している。(本業赤字とは、銀行の運営コストを貸し出しや手数料の収入など基本業務で賄えない状況を指す。)

こうした状況において、コストを削りながら経営基盤を強化する地銀再編が都市部と地方の双方で相次いでいるのは当然の帰結と言える。これまでは地方銀行が合併して地域のシェアを独占することは、銀行間の競争阻害につながるゆえに、同一県内の地方銀行再編は基本的に禁止されていた。

しかし、現在の地方銀行の状態を鑑みて、2020年11月に独占禁止法の特例法施行がなされた。地方銀行同士の合併によって地域におけるシェアが高まったとしても同法の適用が除外となったことで、再編がこれまでよりも容易となった。

直近の例として、ふくおかFGと十八銀行の経営統合が挙げられる。

公正取引委員会は統合後に長崎県内での融資シェアが高くなりすぎることを懸念して経営統合に反対したが、金融庁は独占による経済への悪影響よりも地方銀行の再編を優先するべきであるとの考えを示し、政府は独占禁止法の特例法を設けることで再編を後押しする方針を明確にした。

また、独占禁止法の特例施行以外にも、政府は金融審議会で規制緩和による出資規制や銀行の事業範囲の見直しを提言している。現在、地方銀行は預金を集めて貸し出すという従来のビジネスを軸とした体制から脱却し、収益を上げられる新規ビジネスモデルの構築を迫られている。

例えば地域商社、コンサルティング会社、IT企業など、地域経済の活性化につながる銀行本体以外の様々な子会社設立が今後進められていく可能性がある。事業範囲が拡大していくと、従来の銀行員の仕事とは異なる分野で専門的な業務に従事する従業員が多くなっていくと考えられる。旧態依然の人事制度を改めて、ITやコンサルティングなど専門性の高いスキルを適切に評価し、報酬を与える仕組みを整備していくことも重要な課題となる。

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再編以外の選択肢とこれからの地方銀行

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地方銀行の再編以外にも、経営改善に向けた選択肢は複数なされている。

その一つがアライアンス(包括的な業務提携)である。

現在、複数の地域銀行間でアライアンスが行われている。具体的には、ATMの相互開放、FinTech等の情報技術の共同研究、独自の投資信託の組成等が実施されている。アライアンスを行うことで、これまで個々の銀行が行なっていた各業務を統合し、大規模かつ迅速に進めていくことができる。また、サービスの範囲拡大と質的向上を同時に行えるという利点もある。アライアンスは将来の経営統合を必ずしも前提としないため、緩やかな枠組みで業務提携を行えるという特徴がある。そのため複数のアライアンスに参加している銀行も存在する。

また、経営基盤強化のためには、行員自体が専門的な知識、経験を積んで成長し、高リスクではあるが収益性の高い業務に参入するという手もある。これまでの地方銀行は、都市銀行に比べて保守的な立場をとってきた。リスクを取らない経営を行うことが、安定を好みやすい地方の顧客からの信頼獲得に繋がってきたことは事実である。

しかし、今後地方銀行が激化する競争を生き残り、将来も継続的に発展していくためには、多少のリスクを取ってでも収益性の高い事業に参入していく必要がある。投資、証券などの業務への参入も考慮するべきであろう。投資、証券はリスクが高く、確かな専門性が必要となってくる分野である性質上、取り組みに消極的な地方銀行も多い。リスクが高いため莫大な損失を計上してしまう可能性もあるが、その分高いリターンを見込むことができる。生き残るためには保守的な立場を取る一方で、積極的に新規分野を開拓しなくてはならない。

また、基幹業務である融資についても質的に向上させていく必要がある。数ある中小企業の中から、収益を確実に生み出せるような優良企業を見極めることも重要である。その見極めには定量的・定性的な能力が求められる。専門性の高い金融知識に加え、企業との対話能力を持った行員の育成が望まれる。

政府が地方銀行に対して公的資金を注入することで研修制度を充実させ、行員が専門的なスキルを成長させる機会を増やしていかなければならない。

また、アライアンスや再編による経営統合の過程で、地方銀行同士が互いのノウハウを集約し、経営改善に活かしていくことも有効であろう。

地方銀行は地域にとって必要不可欠なものである。

しかし、これからもその役割を担っていくためには、現状から脱却して生まれ変わる必要があることも事実である。地域社会に対して質の高い金融サービスを提供できるまで成長するには、行員の育成、経営基盤の強化に相応の時間とコストがかかることを考慮に入れなければならない。地方銀行のあるべき姿や求められる制度とは何かを積極的に議論し、政府の協力も得ながら長期的に目標実現に向けて動いていくことが求められる。

金融機関を取り巻く状況は、今後さらに変化していくであろう。

長期的な成長に向けて投資を行ないながらも、短期的な課題に対してもうまく舵を取りながら迅速に対処できるかが、今後の地方銀行において重要なポイントとなる。

参考文献

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この記事を書いた人

IFA転職を運営し、IFA専門転職支援サービスを展開。創業から100名以上のIFAへの転職を支援。また、アドバイザーナビ経由でのIFAになった方の転職者のコミュニティ「Club IFA」も運営しており、IFA業界の転職市場に精通している。

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