「今の会社に留まるのか?それとも今のうちに退職した方がよいのか?」「仮に今やめるとしたら、退職金はどの程度もらえるのだろうか?」退職金の金額は、これからのキャリアと資産形成を考える際の基本的なデータになる。
本稿では、退職金制度について簡単に触れたのち、退職金として支払われた金額をケース毎に紹介する。加えて過去20年で退職金が約1,000万円減ってきた点に触れる。
この記事を読むことで退職金の平均がわかると同時に、退職金をあてにしない人生戦略が必要なことに気づくはずだ。
退職金について
退職金制度のある会社は80.5%
退職金は、すべての会社にあるわけではない。 厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」によれば、退職金制度のある会社は全体の80.5%だ。
残業代や給与とは異なり、退職金支給は会社にとって義務ではない。もちろん就業規則に退職金支払いを明記していたり、退職金の規約を定めたりしているのに、支払わないのは問題行為。一方で退職金制度がないことはまったく問題ではない。
退職してから「このようなはずではなかった」とならないために、自分が働いている会社には退職金制度があるのかを確認したい。
2つの受け取り方法「退職一時金」と「退職年金」
退職金の受け取り方には「退職年金」と「退職一時金」の2種類ある。企業によっては退職一時金と退職年金の併用ができる場合もある。自分の会社の退職金制度をいま一度確認してみよう。
「退職一時金」は、名前のとおり退職金を1回で受け取る。退職金制度を採用している会社の内73.3%が採用している。一般的に退職金といえば、この「退職一時金」を指すことが多い。
課税上、退職一時金は「退職所得」として取り扱われ、税制面のメリットが大きい。半面
「退職年金」と比較すると受取総額が少ない傾向がある。
「退職年金」は、退職金を分割して受け取る。退職金制度を採用している会社の内8.6%が採用している。課税上、退職年金は「雑所得」として扱われる。公的年金等控除より多くの金額を退職年金として受け取る場合は、控除を超えた分は雑所得として毎年所得税・住民税の課税対象になる。また、健康保険や介護保険の自己負担割合が多くなることもある。
退職金の平均額
退職金額の平均金額は条件によって大きく異なる。今回は「学歴別」「規模別」に大別して紹介する。「学歴別」ではさらに「勤続年数」と「退職事由」に分類する。
学歴別
下記データは勤続20年以上かつ45歳以上の退職者がいた企業を対象に行った調査結果である。少なくとも社歴が20年以上の企業のデータである故、設立間もない企業が含まれていない点には注意が必要だ。
「大学・大学院卒」と「高校卒」とを比べると、大学・大学院卒の方がやや総じて高い。理由は一般的に、大学・大学卒の方が部長や役員など上級職に就く確率が高く毎月の給与が高い点にあると推察する。
学歴による退職金の違い
学歴 | 大学・大学院卒(事務・管理・技術職) | 高校卒(事務・管理・技術職) |
---|---|---|
退職金 | 1,983万円 | 1,618万円 |
学歴 × 勤続年数
学歴に関わらず、勤続年数が長いほど受け取れる退職金は高額になる。高卒の「30-34年」から「35年以上」は1,000万円上昇している点に注目してほしい。このことから、勤続年数と退職金は単純な「正比例」の関係ではなく退職直前の数年で急上昇するように制度設計している会社が多いと思われる。
勤続年数による退職金の違い
学歴 | 大学・大学院卒(事務・管理・技術職) | 高校卒(事務・管理・技術職) |
---|---|---|
全体 | 1,983万円 | 1,618万円 |
勤続 20 ~ 24年 | 1,267万円 | 525万円 |
25 ~ 29年 | 1,395万円 | 745万円 |
30 ~ 34年 | 1,794万円 | 928万円 |
35年以上 | 2,173万円 | 1,954万円 |
学歴 × 退職理由
学歴にかかわらず、「自己都合」「定年」「会社都合」「早期優遇」の順に退職金の金額は高くなる。高校卒の「自己都合」と「早期優遇」とでは約2倍の違いがある。「転職」を少しでも考えている場合は早期優遇に応じるのも一つの戦略だろう。
退職事由による退職金の違い
学歴 | 大学・大学院卒(事務・管理・技術職) | 高校卒(事務・管理・技術職) |
---|---|---|
自己都合 | 1,519万円 | 1,079万円 |
定年 | 1,983万円 | 1,618万円 |
会社都合 | 2,156万円 | 1,969万円 |
早期優遇 | 2,326万円 | 2,094万円 |
規模別
学歴にかかわらず大企業の方が退職金は多い。中小企業の大学卒より、大企業の高校卒の方が高い。このデータからは、退職金の多寡は会社規模によるところが大きいと言える。また、大企業と比べて中小企業の方が、学歴による退職金の金額の差異が小さいこともわかる。大企業の大学卒の退職金が2,000円を超えている点にも注目したい。
会社規模による退職金の違い
大企業 | 中小企業 | |
---|---|---|
大学卒 | 2,230万円 | 1,189万円 |
高校卒 | 2,017万円 | 1,031万円 |
退職金をあてにしない人生戦略のススメ
退職金はおおよそ20年で1,000万円以上減っている。理由は、単純に退職金を減らしている会社が増えたこともあるだろうし、毎月の給与を増やす代わりに退職金制度をなくした会社が増えたこともあるだろう。
視点を変えて、現在の経済環境を見てみよう。足下では金利が上昇する気配は見られない。低金利だと集めたお金を高い利回りで運用することが難しいので、年金を運用する金融機関(信託銀行など)も年金を大きく増やせない。
退職金制度の今後や、継続する低金利を勘案すると、退職金は今後も減っていくことが想定される。
従って、キャリアや資産形成を考える際は、退職金をあてにしないプランづくりをおすすめする。
退職金の推移(大学卒)
出典:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」(2022年5月調査)
出典:厚生労働省「平成20年就労条件総合調査」(2022年5月調査)
出典:労働大臣官房政策調査部産業労働調査課「平成15年就労条件総合調査」(2022年5月調査)
出典:労働大臣官房政策調査部産業労働調査課「平成9年賃金労働時間制度等総合調査」(2022年5月調査)
まとめ
今回はいろいろなケースの退職金の平均額を紹介した。紹介したデータは過去の実績であり、将来受け取れる退職金の金額ではない。過去を振り返ると、退職金は大幅に減額されてきている。
いざ退職した時に「知らなかった」「このようなはずではなかった」とならないように、退職金をあてにしない人生戦略をたてていきたい。具体的には、毎月の収入を増やすことだ。転職や副業が考えられる。