日本株ロングショート戦略のヘッジファンドに転職し、アナリストとしてIPO銘柄や製造業全般の中小型株の調査を担当された後、共同創業したKxShare株式会社にてIPOクロスオーバー投資ファンドを運用しているさんまのIPO氏に寄稿いただいた。
本シリーズの最後にヘッジファンドのキャリアパスについて触れる。筆者はブティック系HFを1社経験したのみだが、同僚その他から見聞きした情報や海外転職サイト等で得た情報をもとに、キャリアの全体感についてお話したい。
ヘッジファンドのキャリアについて知りたければ、Wall Street Oasisが参考になる。具体的なファンドごとの選考プロセスがQ&Aに載っていたりするため、筆者も過去には読み漁っていたことがあった。
どうやって入る?
HFにおける職種は大きく運用、営業、管理・コンプライアンス、ITなどに分かれる。
運用職には、基本的にその資産の経験者が採用される。日本株ロングショートファンドであれば、証券会社(セルサイド)や運用会社(バイサイド)のアナリストやファンドマネージャー、投資銀行部門出身が多い。マクロや債券その他のファンドであれば、証券会社や銀行等のトレーダーやストラテジスト、運用会社のファンドマネージャー出身者が多い。
もちろん業界内の横滑りも一般的であり、「あの人いまに移ったんだっけ」はいつでも発生するし、BloombergやLinkedInを見れば「著名HF2~3社経験者だらけ」である。「あの人はA社でうまくいかなかったと聞いたけど、しばらく姿を見ないと思ったらB社に入っていたことがBloombergで分かった」が本当によくある話で、誰も驚かない。なお、ごく例外的に新卒採用を行っているヘッジファンドもある。
運用職以外は、もしかしたら運用職よりも門戸が狭いのかもしれない。営業には、証券会社のプライムブローカレッジ出身者や運用フロント出身者が多いようである。そもそも日本で活発に募集している海外ヘッジファンドが少ないという背景もあるし、優秀な外部の営業マン(プライベートバンクやIFA)を活用すればよいという事情もあり、人数はかなり限られている。
管理・コンプライアンスには、証券会社及び運用会社のコンプライアンス部門から横移動でその道のプロを採用するケースが大半と思われる。厳しい金融庁の規制をクリアするにはしっかりと経験者を採用する必要があるためだ。
運用チームが何十個もあるような大手ヘッジファンドでは、CIO ― ポートフォリオマネージャー(PM) ― サブポートフォリオマネージャー ― アナリストという階層に分かれるのがよく見るヒエラルキーである。
日本株ファンドであれば、アナリストとして入社するのは、IBDやセルサイドアナリスト、バイサイドでの経験が5~10年くらいあってヘッジファンド未経験の30歳前後の若手が多い印象。アナリストとして成果を重ねると、サブポートフォリオマネージャーに昇格してチームの資産の一部を運用させてもらえることがある。
更にサブPMとして活躍すれば、PMとして自分のチームを持つようになるというキャリアパスを描く。セルサイドアナリストがいきなりサブPMとして入社するケースや、ヘッジファンドではない運用会社のポートフォリオマネージャーがいきなりPMとして入社するケースも多い。
給料は?
読者にとってはつまらないだろうが、PMもアナリストも成績次第で一概には言えないというのが回答だ。下は恐らく1000万円台~上は億単位の年収と、レンジが広過ぎるのだ。
まずPMへ、実力に応じてCIOから運用する資産額と予算を与えられる。この中でパフォーマンスと自身の給料を最大化できるように、チーム構成や予算配分を考えるわけである。
例えば、優秀なPMをもう1人追加してリターンを確保したい(同時にリスクを分散化したい)と思えば、基本給1500~2000万円でサブPMを採用すればよい。深夜まで手足を動かしてリサーチしてくれるアナリストが欲しいと思えば、基本給1000~1500万円でアナリストを採用すればよい。
PMは自分の予算の中で部下の給与=固定費を払う。1年経って運用がうまくいけば、会社からインセンティブが払われる。インセンティブはまずはPMの財布に入る。財布の中にある余った予算とボーナスから、サブPMやアナリストにボーナスを支払い、最後の残りはPMの手元に残る。「部下なんていらない、全部自分でやって自分がお金を貰いたい」、と思えばそうすればOKだ(実際には部下を雇って育成するように諭されるようだが)。
このような仕組みになっているため、アナリストの給料は?と聞かれたらPM次第!と答えるし、PMの給料は?と聞かれたらパフォーマンス次第!チーム内傾斜次第!と答えるより他ないのである。
大まかな給与レンジが乗っているサイトがあったりもするが、上記のような決まり方が一般的なのでやはりレンジは広く、あくまで参考にしかならない。
採用プロセスは?
若手のアナリスト採用の場合、かなり長いプロセスを経てオファーが提示されることが一般的だ。ビジネスデベロップメント(企画部みたいな)との面談から始まり、採用するPM、そのチームのメンバー全員との面接が繰り返される。
プロセスの途中でDCF等のモデル構築テストや、銘柄分析レポートのライティングを挟むこともある。また面接においてはストックピッチという、「ロングできる株、ショートできる株3つずつ教えて」という質問を課されることもよくある。
サブPMやPMとしての採用の場合、前職でのトラックレコード(パフォーマンス)が重視されるようだ。トラックレコードが良ければそれで良いが、悪ければ悪化した理由の説明と戦略の説明が求められる。パフォーマンスが悪かった理由に納得感があれば、それでも採用される可能性があるという訳だ。
トラックレコードの数字は資格のように証明書があるわけではない。このため“リファレンスチェック”が行われる。リファレンスチェックとは面接先の企業から求職者の前職へ電話をかけ、求職者の実績等に嘘がないかと確認する作業である。
ファンドによっては、リファレンスチェックの代わりに年収証明の提出を求めることで実績とボーナスの間に矛盾が無いか確かめる処もあるようだ。
どこが募集している?
まずは業界に詳しいヘッドハンターやファンドの社員を見つけ、どんな会社があるのかを知ることが肝要だろう。グローバルで著名なPoint72やMillenniumでさえ一般には知られておらず、業界の外からは謎に包まれている。
前回のコラムで紹介した日本株HFの一覧でも良い。ヘッドハンターであればどこの会社が採用しているかを聞けばいいし、そうでなければ個別のファンドのHPを見てCV(履歴書)を送ってしまうのが一番早い。オープンには採用していなくても良い人がいれば採りたいと考えているファンドは多いと思われる。
最後に
今回でヘッジファンドに関するコラムのシリーズは終了する。ヘッジファンドとは何か、どれくらいあるのか、どうやって入るのか、年収はいくらかなどといった、到底答えのない問いに出来る限りのソースを見つけてタックルしてみた。読者にとって何かの発見があれば幸いである。