転職活動の志望動機欄に、「キャリアアップのため」と記した経験のある人もいるのではないだろうか。しかしこの「キャリアアップ」という言葉は、実は非常に扱いが難しい言葉でもある。ここでは、
- 「キャリアアップ」という言葉を安易に使うことの危険性
- 志望動機にキャリアアップと書くときの注意点
- キャリアアップが志望の動機であるときの、望ましい使い方
について解説していく。
「キャリアアップ」は便利な言葉だが……
まず初めに記しておくが、転職理由は後ろ向きなものよりも前向きなものの方が良い。その方が本人のためにもなるし、相手にも良い印象を与えやすい。そしてその前向きな理由のひとつとして、「キャリアアップ」がある。
自分の人生や自己実現を考えたとき、「キャリアアップのための転職」は決して悪いものではない。しかしこの言葉は、安易に使ってしまうと逆に不採用に繋がってしまいかねないものである。
その理由はいくつかあるが、まず一つ目として、「だれでも書きやすい言葉だから」が挙げられる。実際にはそのような目的でなかったとしても耳障りが良いうえ、どの職業であっても幅広く使える表現のため、明確な裏付けがない限りは「書くことがなかったので適当に書いたのだな」と思われてしまう可能性が高いのである。
また下記でも触れるが、「自分自身が今まで積み重ねてきたキャリアあるいはこれから目指したいとしているキャリアと、受けた会社の方向性が違う」という状況になることもある。このような状況だと、相手から「この人はキャリアアップを目的としていながら、自分自身のこともきちんと考えられていない人なのだ」と判断されてしまう。
「キャリアアップ」という言葉を志望動機として使う場合は、明確なキャリアプランを考えておくこと、またそれが実際の転職活動とかい離していないことが最低条件だ。またそれをきちんとアピールできるだけのプレゼン能力も身に着けておかなければならない。
こんなやり方はダメ! 気を付けるべき注意点
志望動機に「キャリアアップをしたいから」と書くのであれば、最低限、以下の三つの点に抵触していないかをチェックしよう。
- 前の職場の文句が多い
- 本人の今までのキャリアと相違している会社に応募している
- 具体性を伴ったアピールができない
一つずつ見ていこう。
前の職場の文句が多い
「志望動機:キャリアアップ」と書く場合に限ったことではないが、前の職場の文句を履歴書に書いたり、面接で話したりすることは絶対に避けるべきである。
前職の文句を述べると、「この人は自分が成長できなかったことを、会社のせいにしているな。ウチで採用しても同じように不満を抱くことだろう」と受け取られてしまうからである。「前の会社ではキャリアアップの展望が描けなかった」などのような表現も、できれば避けた方が良いだろう。
ただし「前の会社は同族経営の会社であり、努力をしても管理職に就くことは難しい」などのように、事実を事実として述べるだけならば構わないと考えられている。
またその際には、「自分は実際に〇〇のような努力をしてきたが、それでも難しかった」などのように、実際に自分が実行したことを掛け合わせてアピールするようにするとよいだろう。
本人の今までのキャリアと相違している会社に応募している
上でも少し取り上げたが、「キャリアアップを目的としているにも関わらず、キャリアアップとは関係のない会社に応募している」というのは大きなマイナス点である。極端な例ではあるが、前職が営業職であるにも関わらず事務職に応募している……などのようなケースだ。
「実際は条件だけで転職先を選んでいたため、志望動機にも取り立てて書けるところがない。そのため、『キャリアアップ』という表現を選んだ」などのような場合は、特にこんな状況に陥りやすい。また、これほど極端な話ではなくても、「不勉強ゆえに、目指すキャリアとは異なる企業を選んでしまった」というケースはある。
これを避けるためには、事前にしっかりと自分のキャリアプランを見直すとともに、転職希望先の業務内容の詳細を調べることが必要だ。
具体性を伴ったアピールができない
自分自身のキャリアプランと転職希望先の業務内容が合致しており、そこに入社できればキャリアアップができる……となった場合でも、選考段階で落とされてしまえばその夢が叶うことはない。
選考段階で落とされる理由は一つではないため一概には言い切れないが、具体性を伴ったアピールができていない場合は、残念な結果になりやすい。
明確な数字を出しつつ、相手にアピールする方法を身に着けて、それを履歴書や面接のときに出すことができれば、採用確率はアップするだろう。
具体的なアピール方法、その例文
上では「具体性を伴ったアピールをすることが採用に繋がる」とした。ここではその一例を挙げておこう。
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新卒で電気通信業者に入社し、5年目に第2種電気工事士の資格を、7年目に第2種電気主任技術者の資格も取得しました。大学時代から電気通信を専門に学んで来たため、今後もこの業界で長く勤めたいと考えていましたが、現職では産休・育休を取得後、正社員として復職した女性が一人もいません。
また、現職の管理職は98%が男性であり、女性の管理職はほとんどいません。今後もライフイベントを経ても、技術者として長く働いていくために、女性の技術者・管理職が多い御社に応募しました。
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「国家資格を2つ取った」「昔からこの分野を学んでいて、将来的にも技術者として働いていきたい」「(具体的に数字を挙げたうえで)現職ではそれが難しい」を織り込んだうえで、あえて「キャリアアップ」という単語を使わずにまとめたのが上記の例である。
このように「自分事」として、自分のキャリアプランを明確に記すようにすると、好印象を抱かれやすい。
キャリアアップを目的とした転職でもそれを上手くアピールできなければ無意味
「キャリアアップ」という言葉は非常に使いやすいため、書きやすい志望動機としてよく用いられる。しかしそのような背景があるからこそ、使い方に注意が必要な言葉でもある。
使う際には、前向きに、具体的に書く(話す)ことが求められるが、自分一人だとなかなか難しい……という人もいるだろう。そのような場合は、キャリアコンサルタントのアドバイスを受けてほしい。彼らは、履歴書の書き方や面接での答弁に関する助言も仕事のうちの一つとしているからだ。