証券会社からの転職先には、銀行や保険会社、IFA、不動産会社、M&A仲介会社など様々な選択肢が挙げられる。「証券会社で得た知識や経験を活かしたい」「転職先でも金融営業の職に就きたい」という場合は、プライベートバンク(PB)もひとつの選択肢になる。
そこで本記事では、証券会社からプライベートバンクへの転職を検討している人向けに、その特徴や将来性について解説していく。プライベートバンクへの転職において求められるスキルも解説するため、ぜひ転職を検討する際の参考にして頂きたい。
プライベートバンク(PB)とは?
プライベートバンクとは富裕層を対象とした銀行サービスの一種で、200年以上前にスイスで生まれた金融サービスである。
もともとは、戦争や政変によって経済的リスクが増したことで、富裕層が信頼性のある資産の預け先を求めたことがプライベートバンク誕生のきっかけだ。スイスは永世中立国としての立場を守っており、比較的法定通貨や政治が安定していることから、世界中の資産家の金融資産がスイスに集まることとなったのである。
経営形態としては、「プライベートバンカー」と呼ばれる経営者が顧客の資産に対して無限の責任を負う形が取られていた。これによって顧客の信頼度が高まり、より多くの資産が集められるためだ。
しかし最近では株式会社化するプライベートバンクも多く、大手のクレディスイスやUBSも株式会社として事業を営んでいる。かつての経営形態から大きく変わった現在でも、顧客から寄せられる信頼には変わりがなく、多くの富裕層がプライベートバンクを好んで利用している。
プライベートバンク(PB)の将来性
証券会社からの転職を検討するとき、最も気になるのが業界の将来性についてだろう。特に金融業界は、フィンテックの進化やネットバンク・ネット証券の台頭などによって、大きく情勢が変化しているところだ。
「手数料が高いプライベートバンクは淘汰されるのではないか」「プライベートバンクはこの先も生き残っていけるのだろうか」と不安を感じている人もいるかもしれない。ここからは、金融業界の現状を踏まえたうえでプライベートバンクの将来性について考えていこう。
日本国内における潜在ニーズ
プライベートバンクは欧米の富裕層に古くから利用されている金融サービスであるが、日本ではまだ馴染みが薄い。しかし、日本国内においても富裕層は年々増加しており、潜在ニーズは大きいといえる。
野村総合研究所が2020年10月〜11月に実施した「NRI富裕層アンケート調査」によると、金融資産保有額別の世帯数は下記の通りだ。
- 超富裕層(5億円) ⇒8.7万世帯
- 富裕層 (1億円以上5億円未満) ⇒124万世帯
- 準富裕層(5000万円以上1億円未満) ⇒341.8万世帯
- アッパーマス層(3000万円以上5000万円未満)⇒712.1万世帯
- マス層(3000万円未満) ⇒4215.7万世帯
出典:株式会社野村総合研究所「野村総合研究所、日本の富裕層は133万世帯、純金融資産総額は333兆円と推計」
プライベートバンクが定める顧客の資産水準は各銀行によって異なるが、およそ日本円で1億円以上(不動産資産は除く)が一般的な目安とされている。とすると、上記図で対象顧客となる世帯は全部で約133万世帯にものぼることとなる。
野村総合研究所の同調査によると、準富裕層の世帯数も年々増加していることから、日本国内におけるプライベートバンクの成長余地はまだまだあると推測できるだろう。
日系金融機関によるプライベートバンキングサービス
日本国内における富裕層の増加を受けて、日系の証券会社や銀行でもプライベートバンキングサービスの提供を始めている。下記はその一例である。
株式会社みずほフィナンシャルグループ | 会員制サービスの「MIZUHO Connected Service(ミズホ コネクティッド サービス)」にて、ウェルスアドバイザーサービスや限定セミナー・イベントへの招待を提供する |
三井住友信託銀行株式会社 | UBSグループとの協業ブランド「UBS SuMi TRUST」のもと、資産運用アドバイスやタックスプランニング、事業承継サポートなどを行う |
大和証券株式会社 | 自社株管理のコンサルティングや生前贈与、フィランソロピーのサポート |
中には、三井住友信託銀行のように外資系のプライベートバンクと協業してサービスを手掛けているところも見られる。大手金融機関が富裕層への独自サービスの提供に注力していることからも、プライベートバンク業界の注目度の高さがうかがえるだろう。
証券会社からプライベートバンクへの転職に求められるスキル
証券会社とプライベートバンクの業務には多くの共通点があるため、証券会社で培った営業スキルや高い接客サービスはプライベートバンクでも十分活用できる。それに加えて、顧客を総合的にサポートすることが求められるプライベートバンクでは、次のようなスキルも求められる。
- 顧客のニーズを引き出すヒアリング力
- 顧客と深い関係を築くコミュニケーション能力
- 顧客1人1人に応じたプランを提案するコンサルティングスキル
- 常に情報収集を続ける向上心
- 顧客を生涯担当できる責任感 など
証券会社に比べてより幅広い業務を手掛けるプライベートバンクでは、顧客とのふとした会話からニーズを引き出すアンテナの高さが求められる。常に「顧客の人生をより良いものにするために、どのようなサービスを提供できるか」といったことを考える姿勢が欠かせない職業だ。
また、日本証券アナリスト協会では、プライベートバンカーとして働く人のために「プライベートバンカー資格」の付与を実施している。資格を取得するためには、ウェルスマネジメントや不動産、税制など多岐に渡った分野の知識が求められるため、実務にも活きてくるだろう。プライベートバンクへの転職を検討している人は、ぜひ取得することがおすすめだ。
なお、プライベートバンカー資格には「PBコーディネーター」「プライマリーPB」「シニアPB」の3種類があり、最上位資格のシニアPBの合格率は28%前後となっている。
プライベートバンクに転職するにはどうすれば良いか?
本記事では、プライベートバンクの将来性や転職で求められるスキルについて解説してきた。年々富裕層が増加している日本国内では、プライベートバンクの潜在ニーズが大きいと推定される。日系の大手金融機関もプライベートバンキングサービスに力を入れていることからも、その注目度の高さが伺えるだろう。
「金融知識を活かした転職先を見つけたい」「顧客の人生に寄り添った営業活動を行いたい」という人は、プライベートバンクへの転職を検討してみてはどうだろうか。