中小企業診断士とは
中小企業診断士は経営コンサルティングの唯一の国家資格である。
中小企業の経営状況を改善するために、企業の経営全体(経営、会計、法務、情報など)について調査や分析を行ない、改善方法を提案する業務を行う。この資格を学ぶ過程で、企業経営に関わる知識を幅広く身につけることができる。資格を取得すれば、中小企業の経営課題に対応する方法を考察し、助言を与えることができる。
経営コンサルタントとして独立する場合は、企業からの信頼を獲得し、期待に応えることができれば高収入を得ることも可能である。
また、企業内診断士として働く場合も、資格に応じて、希望の部署に異動したり、参加したいプロジェクトに取り組めたりする可能性が高まる。
中小企業診断士に必要な試験と対策方法
中小企業診断士になるまでには、1次試験、2次(筆記・口述)試験、実務補習・実務従事の3段階のステップがある。
1次試験は、中小企業診断士に必要な知識を有するかどうかを判定することを目的として、企業経営、コンサルティングに関する基本的知識が問われる。なお、他の国家資格の合格者などに対しては、申請により試験科目の一部免除が認められる場合もある。年齢・性別・学歴等による受験制限はない。試験実施科目は7科目であり、問題形式は四肢択一or五肢択一のマークシート形式である。
日程 | 試験科目・時間 | 配点 |
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1日目:午前 | A. 経済学・経済政策 60分 | 100点 |
B. 財務・会計 60分 | 100点 | |
1日目:午後 | C. 企業経営理論 90分 | 100点 |
D. 運営管理 90分(オペレーション・マネジメント) | 100点 | |
2日目:午前 | E. 経営法務 60分 | 100点 |
F. 経営情報システム 60分 | 100点 | |
2日目:午後 | G. 中小企業経営・中小企業政策 90分 | 100点 |
合格基準は合計スコアに基づく。免除された科目を除いて全科目を受験し、その合計点数が60%を超え、かつ全科目で40%以上の得点率を取得し、試験委員会に合格相当の基準を突破したと認められた場合に合格となる。また、科目合格制度も存在し、合格した科目は次回以降の試験が免除になる。科目合格の基準も同様に、60%以上の点数取得を基準とし、試験委員会が合格相当と認めた場合に合格となる。合格の有効期間は全科目合格の場合2年間、科目合格の場合は3年間となる。
第二次試験は筆記試験と口述試験である。中小企業診断士に必要な応用能力を有するかどうかを判定することを目的に実施され、企業の問題点や改善点などに関して出題が行われる。筆記試験は4科目であり、各設問15~200文字程度の記述式である。口述試験は筆記試験出題内容をもとに4~5問出題される。
筆記試験の概要
試験科目・時間(各80分) | 配点 | |
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午前 | 【事例Ⅰ】組織(人事を含む)を中心とした経営の戦略および管理に関する事例 | 100点 |
【事例Ⅱ】マーケティング・流通を中心とした経営の戦略および管理に関する事例 | 100点 | |
午後 | 【事例Ⅲ】生産・技術を中心とした経営の戦略および管理に関する事例 | 100点 |
【事例Ⅳ】財務・会計を中心とした経営の戦略および管理に関する事例 | 100点 |
二次試験合格後は中小企業診断士として診断実務能力を有するかどうか、実務を通して判断することを目的とした実務補習・実務従事に進む。
第2次試験合格後、3年以内に実務補習を15日以上受けるか、実務に15日以上従事することで、中小企業診断士としての登録申請が可能になる。登録実務補習機関による実務補習または中小企業基盤整備機構、都道府県等中小企業支援センターにおける実務補習のどちらかを選択する形式になる。
最大6名以内でグループが形成され、指導員の指導のもと、実際に企業に経営診断・助言を行う。
1企業当たりの日程 | 主な内容 |
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実施4~5日前 | 指導員からメールにて、企業概要の提示や事前準備作業の指示が行われる。 |
第1日目 | グループ別打合せ、企業等の訪問・調査、資料分析など。 |
第2日目 | 企業等の訪問・調査、資料分析など。 |
自主作業 | 受講者・指導員間でメールにて、経営課題の抽出や診断報告書の作成準備を行います。 |
第3日目・第4日目 | 全体調整、診断報告書の作成。 |
第5日目 | 企業等への報告会など。 |
*上記は実務補習5日コースの場合。15日以上の実務補習が必要なので5日コースの場合は3回ほど受講することになる。
試験の対策方法としては参考書を使って独学で勉強する方法と、予備校に通って学ぶ方法の2つがある。本試験は一発合格率が4%の高難度試験であり、合格までの学習時間として平均で1000~1200時間が必要になる。
時間に余裕があり自分の学習方法を確立できている学生であれば独学で、勉強に時間を割くことの難しい社会人であれば多少のお金を払ってでも予備校に通って対策するのが良いと思われる。予備校代は1年合格コースで20~30万が相場である。
中小企業診断士のキャリアビジョン
中小企業診断士のキャリアビジョンとしては主に以下のパスが考えられる。
第一に、経営コンサルタントとして独立する道だ。本資格保有者のうち、3割程度は独立していると言われている。会社を退職してこの道を目指す場合、失敗すれば所得水準が下がるリスクもあるが、顧客を獲得できるようになれば高いリターンを得ることができる。実際、年収2000万を超える中小企業診断士は全体の12%に上る。この数字は基本的に独立しないと厳しい数字である。独立している中小企業診断士が全体の30%ほどであり、その半数弱が年収2000万の水準に達成していると考えると、リスクは大きいが悪くない道であるかもしれない。
次に、企業内で働く道がある。企業で働く場合、大きくわけて2つの道がある。一つは企業内診断士として企業内の部門で知識を生かして働く道だ。経営部門、リサーチ部門、法務や広報といった部門で学んだ知識を活用できる。中小企業診断士のおよそ6割がこの企業内診断士であると言われる。もう一つの道として、コンサルティング会社の社員として他の企業のコンサルティングに関わる道がある。会社の持つコンサルティングのノウハウと自分の専門知識を組み合わせて働けることで市場価値を高められる。しかし、コンサル特有の激務に耐えられることが条件となる。
また、中小企業診断士には書籍を執筆したり、研修講師、講義講師、講演講師として働く人々も存在する。中小企業診断士の資格受験校で講師についたり、商工会や商工会議所で講演を行ったり、企業内での研修に呼ばれたりすることで、次回以降の仕事受注につながったり、社会的知名度を獲得できる。しかし、こうした仕事を行うには様々な知識を備えておく必要がある。
中小企業診断士の登録者数は日本で約2万人である。前述のように約6割が企業内診断士として働き、約3割が独立して働いている。
なお、資格取得者は管理職の中高年層が半数以上である。キャリアアップのため、もしくは業務上において必要になったために取得する人が大半と考えられる。また、この資格が中高年層に人気な理由としては、定年退職後でも再就職活動や引退後の起業に活かせることも挙げられる。
また若手や中堅層においても、転職活動を行ったり独立を目指したりする上で、中小企業診断士は強みとなる。
とりわけ、今後成長が期待できるAIやロボティクス、観光産業など、スタートアップ企業が台頭する市場においてその強みを活かせる。
またその他の市場であっても、中小企業が日本の企業数の99.7%を占めることを考えると、中小企業診断士の資格を活用してその市場に参入することは難しくないはずだ。
中小企業診断士の業務を自己の得意分野や強みと組み合わせることが、活躍のポイントになりそうである。
また、国家としても中小企業に融資を行っている金融機関に診断士の設置を奨励する構想が上げられており、中小企業診断士の必要性は増している。
市場価値を上げるために本資格を取得するのも一つの手である。
まとめ
中小企業診断士の平均年収は800万ほどでかなり高水準である。
しかし、中小企業診断士を取ったからといってすぐに年収800万に到達するわけではない。
資格取得者のボリュームゾーンは社会人であり、そもそもこの資格を取得する前から年収が高い場合が多い。独立すれば年収2000万以上も目指せるが、リスクはつきものだ。公認会計士や弁護士のように法的に定められた専門業務が存在しないために、ほとんど仕事を得られない可能性もある。当然ながら、その場合は独立前よりも大幅に年収が下回る。
しかし、会社によってはこの資格を取得することで月2〜3万ほどの手当が出る場合もある。
また、この資格において学べる内容は業務に活かしやすい。
この資格を取得すれば広範なスキルが身につくし、毎月の手当を得られる可能性も生まれるし、転職や独立の道も開ける。
そして何より、日本において大多数を占める中小企業全体にアプローチできる唯一の国家資格であると考えると、1000時間の勉強で取得できるのであれ、総合的に見て費用対効果の高い資格であると言える。
参考文献
J.SMECA「どうしたら中小企業診断士になれるの?」(2022年7月)