転職後に振り込まれた退職金の金額を見て、その少なさに驚いてしまった。転職経験者ならそのようなエピソードをお持ちの方もいらっしゃるだろう。総じて自主退職・自己都合退職時の退職金は少ない。
本稿では、2種類の退職について説明したのち、自主退職・自主都合退職時の退職金金額を具体的なデータで紹介する。
自己都合退職時の退職金の相場を把握することは、今後の働き方や資産形成を考える際に役立つはずだ。
会社都合退職と自主退職・自己都合退職との違い
退職には「会社都合退職」と「自己都合退職」との2種類がある。
会社都合退職とは、読んでのとおり会社の都合により退職すること。具体的には、会社の倒産、経営難によるリストラ、工場撤退に伴う解雇などだ。会社都合退職の場合、失業保険は申請後最短7日で給付が開始され、最長330日と長期間に渡り受け取れる。また、会社から支払われる退職金も満額受け取れる。
自主退職は自己都合退職と同じ意味である。自己都合退職とは、転居や介護などの家庭の事情に伴う退職や、転職など自分の事情により会社をやめること。自己都合退職の場合、失業保険は申請から2か月7日後の給付開始になり、給付期間は最長でも150日だ。また、会社から支払われる退職金も減額されるケースが多い。さらに、会社によっては3年以上など、一定の勤続年数を超えないと退職金支払いの対象者にならないことも多い。
自己都合時の退職金
会社都合と自己都合との退職金
厚生労働省の調査によれば、2021年に支払われた自己都合による退職金の平均は447万円だ。会社都合の約6割%、同じ年に定年退職した人の退職金の2割程度にしかならない。
退職事由による退職金金額の違い
定年退職 | 会社都合 | 自己都合 | |
---|---|---|---|
2021年 | 1,872万円 | 1,197万円 | 447万円 |
ここ数年、自己都合退職の退職金は400万円台で安定している。ここ10年間は大企業より金額の減少率は少ないものの、支給額は一貫して大企業より少ない。
しかし「400万円程度」の退職金が受け取れるとは限らない点には注意が必要だ。退職金の金額は非常にばらつきが多い。400万円台とは、ばらつきの多いデータの平均値なのだ。
次からは「業種別」「会社規模別」「勤続年数別」に自己都合退職時の退職金額を紹介する。
退職事由別 退職金金額の推移
出典:厚生労働省中央労働委員会「令和3年賃金事情等総合調査」(2022年5月調査)「令和元年賃金事情等総合調査」(2022年5月調査)「平成29年賃金事情等総合調査」(2022年5月調査)「平成27年賃金事情等総合調査」(2022年5月調査)「平成25年賃金事情等総合調査」(2022年5月調査)「平成23年賃金事情等総合調査」(2022年5月調査)
業種別にみる自己都合退職時の退職金
下の表は業種別の退職金額だ。同じ自己都合退職であっても、「私鉄・バス 573万円」と「介護事業所 72万円」は約8倍もの差がある。
また、会社都合と自己都合との差分にも注目したい。「建設」「銀行・保険」の自己都合の退職金は、会社都合と比較してわずか1/10に満たない。業種により退職金額が大きく異なるのだ。
業種別・退職事由別 退職金金額の違い
定年 | 会社都合 | 自己都合 | |
---|---|---|---|
調査産業計 | 1,872万円 | 1,197万円 | 447万円 |
食品・たばこ | 1,862万円 | 2,094万円 | 251万円 |
化学 | 2,089万円 | 1,226万円 | 403万円 |
機械 | 1,710万円 | 1,092万円 | 467万円 |
建設 | 2,097万円 | 1,996万円 | 186万円 |
銀行・保険 | 878万円 | 1,441万円 | 118万円 |
私鉄・バス | 1,937万円 | 1,016万円 | 573万円 |
介護事業所 | 342万円 | ー | 72万円 |
規模別、勤続年数でみる自己都合退職時の退職金
会社規模によっても退職金の金額は大きく異なる。下のグラフは「会社規模・退職事由」と退職金額との関係を示している。数値は大学卒のモデル退職金(卒業後すぐに入社した場合の退職金水準)だ。
薄い水色の実線(中央労働委(2019)会社都合)は、大企業における会社都合の退職金を示している。そのすぐ下、薄い水色破線(中央労働委(2019)自己都合)は大企業における自己都合の退職金額を示している。
同様に、グラフ下部 濃い青の実線(東京都(2020)会社都合)は、中小企業の会社都合の退職金額を示しており、破線は中小企業の自己都合の退職金額を示している。
会社規模別・勤続年数別 退職金金額の違い(モデル退職金/大卒)
このグラフからは、退職金金額は退職事由よりも、会社の規模による差異のほうが圧倒的に大きいことがわかる。大企業の方が退職金は多く、中小企業の方が少ない。
次に横軸の勤続年数に着目する。大企業は勤続10年目以降から大きく上昇し、勤続年数を重ねるにつれ中小企業との差は開いていく。そして、大企業の上昇は勤続30年以降に緩やかになる。
このグラフからは、勤続年数10年未満に退職するケースでは会社規模による金額の差異は少ないことがわかる。そして、勤続10年未満での退職では受け取れる退職金もわずかにとどまる。
自己都合退職時の退職金はあてにせず、新しい生活をどうするのかにフォーカスせよ
この記事では、統計データを元に自己都合退職時の退職金の平均金額は400万円台であることを紹介した。また勤続10年未満の場合は会社の規模にかかわらず少額であることや、業種や会社規模により金額の差異が大きいことを説明した。
昨今は退職金そのものが減ってきている。自己都合退職の場合の退職金はさらに厳しい金額
になる可能性が高いと推察される。
退職金の推移(大学卒)
出典:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」(2022年5月調査)
出典:厚生労働省「平成20年就労条件総合調査」(2022年5月調査)
出典:労働大臣官房政策調査部産業労働調査課「平成15年就労条件総合調査」(2022年5月調査)
出典:労働大臣官房政策調査部産業労働調査課「平成9年賃金労働時間制度等総合調査」(2022年5月調査)
実際に自己都合退職をするには、相応の理由や目的があるはずだ。退職金には期待を寄せずに、退職の理由や目的にかなう「新しい生活」「新しい働き方・職場」にフォーカスしてプランを練ることの方が、より建設的で現実的な人生戦略ではないだろうか。