このページをご覧になっているあなたは、証券アナリスト資格の価値について、真剣に情報を集めていらっしゃることでしょう。
インターネット上には「意味がない」という意見もあれば、「転職に有利」という声もあり、一体どちらを信じれば良いのか、分からなくなっていらっしゃるかもしれません。
私たちは金融業界を専門とする転職エージェントとして、これまで3,000名以上の金融機関勤務者のキャリアに寄り添ってまいりました。その経験と客観的なデータ、そして公表されている事実に基づき、あなたのその疑問に、誠実にお答えしてまいります。
この記事を読み終える頃には、あなた自身のキャリアにとって証券アナリスト資格が必要かどうかを、自信を持ってご判断いただけるようになるはずです。
証券アナリストは意味ないと言われる2つの現実的理由
まず、なぜ「証券アナリストは意味がない」という意見が存在するのか、その背景にある現実から見ていきましょう。
この資格について調べていると、費用対効果への不安を感じるかもしれませんが、その感覚は決して間違ってはいません。ネガティブな意見が生まれるのには、主に2つの合理的な理由が存在するのです。
理由1:「独占業務」を持たない民間資格である
最初の理由は、証券アナリストが「独占業務」を持たない民間資格であるという点です。
独占業務とは、その資格を持つ人でなければ法的に行うことが許されていない仕事のことを指します。例えば、弁護士であれば裁判での弁護活動、公認会計士であれば企業の財務諸表の監査などがこれにあたります。これらの業務は、資格を持たない人が行うことはできません。
一方で、日本証券アナリスト協会(SAAJ)が認定する証券アナリスト(CMA)は民間資格であり、法律で定められた独占業務は存在しません。
つまり、企業価値の分析や市場調査、ポートフォリオの管理といった業務は、極論すれば資格がなくても行うこと自体は可能である、ということです。この事実が、「資格を取らなくても仕事はできるのだから、意味がないのではないか」という意見の大きな根拠となっています。
理由2:取得しても「直接的な収入増」が保証されるわけではない
第二に、資格を取得したからといって、誰もがすぐに大幅な年収アップを約束されるわけではない、という現実があります。
一部の企業では、資格手当や合格一時金といった形で金銭的なインセンティブを用意しているケースもあります。例えば、日本証券金融株式会社(JSF)では合格祝金や受験料補助の制度が存在します。しかし、これはあくまで企業ごとの方針であり、全ての企業で同様の制度があるわけではありません。
弁護士や公認会計士のように、資格そのものが高年収に直結する強力なカードとは言い切れない側面があるのです。
多大な学習時間と決して安くはない費用を投資したにもかかわらず、確実な金銭的リターンが見えにくい。この点が、「コストパフォーマンスが悪いのではないか」という合理的な疑念につながり、「意味がない」という評価の一因となっているのです。
証券アナリスト資格を持たないことがキャリア機会損失に繋がるリスク
「意味がない」と言われる理由には、確かに合理的な側面があります。
しかし、その一方で、資格を持っていないことがキャリアにおける「機会損失」— すなわち、得られたはずのチャンスを逃してしまうリスク — に繋がるケースも少なくありません。
直接的なリターンは見えにくいかもしれませんが、証券アナリストの資格は、キャリアの可能性を守り、広げるための「パスポート」のような役割を果たしているのが現実です。
ここでは、資格がない場合に起こりうる2つの具体的なリスクについて解説します。
リスク1:専門部署への道が閉ざされる社内キャリアパスの制限
一つ目のリスクは、社内でのキャリアパスが制限される可能性です。
多くの金融機関や事業会社には、高度な専門知識が求められる部署が存在します。
例えば、企業の財務戦略を立案する「経営企画部」、投資家との対話を担う「IR(インベスター・リレーションズ)部」、あるいは株式や債券を分析・運用する「アナリスト部門」や上場企業のファイナンスを担当する「投資銀行部門」などがそれに当たります。
こうした専門部署への異動や配属の際に、証券アナリスト資格の保有を応募要件や歓迎要件として掲げている企業は存在します。
必須要件でなくとも、同じ部署を希望するライバルが資格を持っている場合、人事評価において差がつくことは十分に考えられるでしょう。資格がないことで、挑戦したい専門分野への扉が最初から閉ざされてしまう可能性があるのです。
実際に、私自身も野村證券在籍時に投資銀行部に公募を出したことがあります。その際に、「証券アナリスト試験の一次試験合格」は必須要件でした。
リスク2:書類選考で不利になる転職市場での「足切り」
二つ目のリスクは、より深刻かもしれません。それは、転職市場における「足切り」の可能性です。
特に、金融専門職や事業会社の財務・企画部門といった人気の高いポジションの求人では、応募の「歓迎要件」として証券アナリスト資格が記載されているケースが非常に多くあります。これは、「このレベルの知識と考え方を持っている人を求めています」という企業からのメッセージに他なりません。
多数の応募者が集まる人気求人において、採用担当者はまず書類選考で候補者を絞り込みます。その際、同じような経歴の応募者が二人いたとして、一方は資格を持ち、もう一方は持っていない場合、どちらが有利になるかは火を見るより明らかでしょう。資格がないというだけで、ご自身の能力や経験をアピールする面接の舞台にすら立てない可能性があるのです。
このように、証券アナリスト資格は、大きな成功を約束する「特急券」ではありません。しかし、キャリアの選択肢を閉ざさないための「パスポート」としての役割を果たしているのが現実なのです。
3,000人のデータで見る証券アナリスト資格保有者のキャリア傾向
では、実際のところ、証券アナリスト資格はキャリアにどのような影響を与えているのでしょうか。
私たちは、過去にご支援してきた3,000名以上の金融業界で働く方々のキャリアデータを分析しました。その結果、一つの明確な傾向が見えてきました。
それは、証券アナリスト資格の保有者が、非保有者と比較して、より高い年収帯や責任あるポジションへの転職を実現しているケースが多い、という事実です。
もちろん、これは「資格を取れば必ず年収が上がる」という単純な話ではありません。
むしろ、このデータの背景にある本質は、資格そのものの価値というよりも、それを取得する過程で得られるものが市場で高く評価されている、という点にあると考えられます。
財務諸表の分析、企業価値評価、マクロ経済の理解といった専門知識が体系的に身についていることの証明になるのはもちろんのことです。それに加え、多忙な社会人生活の中で、数百時間とも言われる学習時間を確保し、難関試験を突破する「目標達成能力」や「知的好奇心」「継続力」といった、目には見えない能力の証明にもなっています。
採用企業は、資格という客観的な事実を通して、その人物が持つポテンシャルや仕事へのスタンスを評価しているのです。データが示す事実は、証券アナリスト資格が、キャリアをより良い方向へ導くための有力なシグナルとして機能している可能性を示唆しています。
【結論】証券アナリストの価値はあなたのキャリアプランで決まる
ここまで見てきたように、証券アナリスト資格は、単純に「意味がある/ない」で割り切れるものではありません。
- 独占業務や確実な金銭的リターンはないものの、持たないことによる機会損失のリスクは存在します。
- 資格だけで成功が約束されるわけではありませんが、データ上は保有者の方がキャリアの選択肢を広げている傾向にあります。
この資格の立ち位置を理解する上で、一つの考え方があります。
それは、特定のキャリアを目指す上では有利に働く「武器」となり得る、という視点です。例えば、これから資産運用業界でファンドマネージャーやアナリストを目指すのであれば、この資格はほぼ必須の武器となるでしょう。また、事業会社のIRや経営企画としてキャリアを築きたいのであれば、ライバルと差をつける強力な武器になり得ます。
一方で、もしあなたのキャリアプランが、これらの専門分野と直接的な関わりが薄いのであれば、時間と費用をかけてまで手に入れるべき武器ではないのかもしれません。
もし、ご自身のキャリアプランと照らし合わせて、この資格が有効な武器になるのか、あるいは別の武器を磨くべきなのか、客観的な情報をもとに判断したいと感じられたら、一度専門家と話してみるのも一つの手でしょう。
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